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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第16話-9

(誠治……おねえちゃんに、あんまり心配かけないでよね……)
 そして、何かあるとはすぐに音信の絶えてしまう少し歳の離れた実弟が、気がかりで仕方なくなる。今は苗字の変わった自分は、確かに木戸家の一員となって随分と経つわけだが、血の繋がった弟・誠治のことは、いつでも心配の種になっているのだ。
 携帯に連絡を入れてみたが、やっぱりそれを取ってはくれなかった。一度こうなると、平気で半年は肉声での連絡が取れなくなることもある。
 一応メールのアドレスも聞いているので、文章としてそれを伝えはするが、
『大丈夫、問題ない』
 という一文が返ってくるのみで、素っ気無いことこのうえなかった。
 航が大学で所属している、軟式野球部のリーグ戦に選手として出場しているそうだが、球場まで足を運び無理やりにでも顔を見るという勇気はなかなか持てなかった。それをすることで、誠治に迷惑がられてしまうことが、美野里には怖いのだ。
「………」
 そんな美野里の心情を、よくわかっているのは航である。そして、航は一度、誠治との接触を試みたことがあった。前期日程での、第2試合でのことだ。
 一塁を守る誠治に対して、出塁する機会を得たその時を好機とばかりに話を振ってみた。しかしそのときは、“隠し球”という思いがけない返答でもって、すげなく追い払われてしまった。
(あの時は、アレで終わったけれど……)
 仁仙大学とは、もう一試合残されている。それまでの間に、美野里と誠治の間に進展が無いようであれば、あの時は諦めてしまった接触を、もう一度、航は図るつもりでいた。
(みの姉に、いつまでもあんな顔はさせたくない)
 翔には負けないぐらい、家族としての親愛を、美野里に抱いている航だ。そして、一番誠治に近い位置にいるのは、自分でもある。
「? なあに、航ちゃん?」
「あ……」
 いつのまにか、美野里を凝視している自分に、航はようやく気がついた。
「……む」
「痛っ!」
 そして、結花に思い切りお尻を抓られてしまった。振り向けば結花が、さながら夜叉のごとき形相で、航に白眼を向けていた。
「ゆかちゃん、げきおこぷんぷんまる〜」
「まる〜」
「お、お前ら、いつの間にそんな言葉を覚えた! ってか、イチャイチャすんじゃねえ、航! それよか、チビども離れろってのぉ!」
「チビじゃないもん、みかだもん」
「みくだもん」
「だああぁぁぁ、わかったから!」
 ひとり翔だけが、美加と美玖を両足にくくりつけたまま、妙な具合に暴れまわって、場を随分と和ませ続けていたのだった。



「なあ、結花ってば」
「なによぅ」
 膨れっ面の結花は、それはそれで可愛いものがあったが、航としてはやはり、機嫌は直して欲しいところだった。
 今日は結花を連れて実家に顔を出した航だったが、泊まることはせずに、少し早めの夕飯をみんなで食べてから、結花を家まで送り届けて、自分はアパートに戻る予定であった。
 夕飯を終えた後の団欒の際に、美野里をじっと見ていた航の事がどうにも気に入らなかったのか、以降の結花は随分と不機嫌な様子になっていた。
 それでも、繋いでいる手を離そうとしないのは、結花の可愛いところで、航はそんな彼女に心底参っている自分を自覚してしまう。互いに“初体験”を済ませた間柄でもあり、結花に対する気持ちの確かさは、航の中では一層揺るぎの無いものとなっている自信があった。
「みの姉に、やきもちやくなんて、美加と美玖みたいだぞ」
「むっ……」
 更に結花の頬が、まるでフグのように膨れ上がった。漫画チックな表現を文章で許してもらえれば、湯気の吹き出しがいくつも結花の顔に散らばっているような具合であった。“ぷんすか”という擬音がよく使われる、アレだ。
「で、だ。どうやったら、機嫌直してくれる?」
「………」
 結花の家まで、もうわずかである。膨れ上がった顔ではなく、彼女の笑顔を見て今日を終えたいと、航は思っている。
「んっ」
「ん?」
 不意に立ち止まった結花が、瞳を閉じながら唇を指差していた。その求めるところがあまりにもわかりやすくて、航は苦笑してしまう。
「わかった」
 しかし、抵抗はない。結花が望むことを、結花が望むままに、叶えてあげたいと思う航は、天下の往来であることも気にする素振りを見せず、結花の唇に自分のそれを、重ね合わせていた。
 翔がそれを見ていたら、美加と美玖がいうところの“げきおこぷんぷんまる”は、彼になっていただろう。
「………」
「………」
 随分と長い間、結花と航の影法師は、ひとつになったままで時を過ごしていた。



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