デネブの館-8
「実はね、わたしも仕事のことで悩みがあって、自分で占ってみたの。そしたら――」
なんと彼女も俺と同じカードを引いたのだが、太陽の方向が逆だと言うのだ。
それが何を意味するのかよくわからなかったが、要するにタロットカードというのはいい意味のカードでも逆向きに出ると意味が逆になる。
つまり、良いカードを逆に引くと悪い意味になってしまうらしい。
それで彼女は浮かなかったのである。
「よく分かりませんけど、占いは占いでしょう? 全部鵜呑みにしなくても」
「あなた、占い師の前で占いを軽視しないでくれる? それに――本当に仕事がうまく行かなくて」
「仕事って、占い師なんですよね?」
「ええ、そうよ」
「今日はお客さんは?」
「あなたが、今週はじめてのお客さんなの」
水曜の夜である。ということは、今週の売り上げは、千円――――。
魔女の腹が、グーッと鳴った。なんとも切ない音に聞こえた。
「失礼ですけど、ご両親とか、ご自宅とかは?」
「両親は、いないの。自宅も無いわ。今は、あの、ネットカフェとかに泊まったりして」
俺は急に重いものを背負い込んだような気分になった。
占いに来たはずが、占い師の人生相談に付き合うことになるとは……。
魔女の瞳は死んだ魚のようになってしまって、しょぼんと身じろぎ一つしない。
重い沈黙が流れた。
「あの、良ければ、何日か部屋貸しましょうか?」
俺は言ってしまっていた。
その魔女の姿が捨てられた猫のように思えてしまって、いたたまれなくなったのだ。
そう、その時はそう思っていた。
「――よろしいんですか? わたし、お返しするものがないから」
魔女は何か藁にもすがるような顔で俺を見つめている。
俺が構わないと言うと、魔女はようやくはじめて笑ったようだ。
あまりにメイクが濃いので不気味な笑みだったが、俺はまだ彼女の素顔をこの時は知らなかった。