母娘指南-5
二十五歳にもなって幼いと思う。それだけにいじらしく、やっと巡り合った男性と何とかうまくいって欲しい。
(医学事典を読んで一人で悩んでいたなんて……)
母親に秘部をさらけ出して……恥ずかしさを超えるほど思いつめていたんだと考えると胸が苦しくなる。
(でも、だいじょうぶかな……)
ふと過った不安が黒雲のように広がる。
(万が一……)
きっとうまくいくと元気づけはしたが、破局なんてことにはならないだろうか。
(もし一方的に早紀の『肉体的欠陥』のせいにされたら……)
性体験のない守がどれほど早紀を思いやってくれるだろうか。傷つけるつもりはなくても、男として事を為し得ない苛立ちが二人の関係をこじれさせてしまうかもしれない。現に早紀の膣が狭いと言ったことで彼女は悩んでいたのである。
(かといって……)
何もすることが出来ない。そもそも二人の問題であり、二人で解決すべきことなのだ。
(でも……早紀……)
もどかしくも妙に熱っぽい想いを抱きながら、佳代は惑う心を支え切れずにいた。
佳代の場合、早紀とはまったく異なる悩みを持ったものだ。初体験の怯えた乙女の体はいとも簡単に貫かれ、痛みに呻き、突き放そうとのけ反る下半身を抱えられて何度抜き差しされたことか。夫は、まさか処女とは思わなかったと事後に謝った。夫は相当経験があったらしく、しかも強い。終わるまでとても長かった記憶がある。二度目の時、
「もう痛くはないよ」
やさしく言ってくれたが、本当は辛かった。声を上げ続けたのは耐えていたからだ。体位を変え、胎内に響くほど強烈なセックスだった。快感が生まれて応じるようになるまでに半年はかかった。
鍛えられたといっていいのか、開発されたのか、佳代の『女』が開花してからは自分でも驚くほど感じるようになっていた。
愛撫が始まる前から性感帯が疼き、いざ絡み合えば、きらめくような快感の痺れが走って、それは受け止められないほど大きなうねりとなって襲ってきた。あまりの凄まじさに(溺れる!)感覚があった。
夢中で自分がどんな反応をみせたのかよく憶えていない。意思とは関係なく体が動いて呼吸が苦しくなった記憶はある。
「すごいな……」
終わった後、夫から、全身をぶつけてきて締め上げられたと聞いても、ただ身動きできない疲労感に朦朧とするばかりであった。
『イク』という感覚を体感して以来、佳代はセックスの虜になった時期がある。到達する道筋を辿るコツも覚え、それは共に昇り詰める夫との協演だから、男への刺激の加減に配慮もする。時間をかけてゆっくり楽しみたい時、初めから昂ぶっていてすぐにでも怒涛の中に飛び込みたい時、日によって異なる。そんな調整具合も体得した。オナニーではないから身勝手に突き進んではいけないのだ。
そして今、
(四十も半ば……)
体は熟し切っている。夜、ときおりマグマのように膨れ上がってくる昂ぶりにどうしようもないことがある。そんな時、布団の中で自らを慰める。手を伸ばすと泉は溢れる寸前になっている。夫との夜を思い浮かべて行為の記憶を辿っていく。声を押し殺し、最後は指をズンと差し込んで突き抜ける快感に震える。だが、ちがう。指は指だ。奥底まで押し込まれる感覚はどうしても味わえない。
若い二人は盛りである。体のそこかしこが感じるだろう。それなのに結ばれないなんて、もったいなくて溜息が出る。
その後早紀は何も言ってこない。何事もなかったような毎日が続いた。