Betula grossa〜出逢い〜-19
「それじゃあ香澄によろしくな!」
梓さんは俺を香澄さんのマンションの前まで送ってくれて、そう言って帰って行った。
香澄さんの部屋のチャイムを押すと
「はぁい!どちら様?」
中から香澄さんの声がした。
「あっ!葛城です!」
俺が答えると
「少年か!待ってたぞ!今開けるから!」
香澄さんは扉を開けると一瞬驚いていた。
「そうだったな....今は女装中だったな....」
すぐに納得して中に入れてくれた。
中に入ると男の人が座っていた。
「お..お邪魔しました!」
慌てて帰ろうとすると
「待て!勘違いするな!兄貴だ!」
香澄さんに呼び止められた。俺が振り返ると
「初めまして....榊原昂(さかきばらたかし)です。」
昂さんが頭を軽く下げた。俺もつられて頭を下げ
「初めまして....葛城純です....」
「挨拶はいいからそこに座れ!メイクを落としてやるから!」
「すみません....お願いします!」
香澄さんが俺のメイクを落としている様子を見ていた昂さんは信じられないというような顔をしていた。メイクを落としてもらい、カツラを取った俺を見て
「男の子....ですよね....」
「はい!」
「すみません....メイクを落としても女の子と見間違えそうで....」
俺は苦笑するしかなかった....
「あっそうだ!俺に何か用事があったんじゃないんですか?」
俺は話題を変えるために香澄さんに話しかけた。
「そうだったな....忘れてた....実は私の実家は神社で、兄貴が神主をやっているんだが....」
「あのぅ....香澄さんの実家ってどこですか?」
「北陸の山奥の小さな村だ!」
「えっ?こっちの生まれじゃないんですか?」
「まあな....で....その田舎の神社で大晦日に神楽を奉納する事になって....それを少年に頼めないかと....」
「えっ!!俺に!?」
俺は驚いて香澄さんを見た。
「うん!」
香澄さんは大きく頷いた。
「ちょっと待って下さい!大晦日って明後日じゃないですか!!そんなのムリに決まってますよ!」
「そう言うな!深く考える必要はないんだ!奉納神楽っていっても....小さな村の神社での話しだ....向こうでも無名の奉納神楽だ....村人以外は誰も見に来ないさ....それに....ここ数年は奉納されていないからな!」
「えっ?」
「毎年奉納する必要もない神楽だって事さ!」
「だったら今年も....」
「そういうわけにいかないんだなぁこれが....実は今年ウチの神社が建てられて三百年だったりするんだ!だから....」
「だったらどうしてもっと早くから準備しなかったんですか?」
「恥ずかしい話しだが....気づいたの今朝なんだ....」
「!?」
俺は呆れて言葉が出なかった。昂さんは恥ずかしそうに頭をかいていた。
「昂さんか香澄さんがするわけにはいかないんですか?」
「そう考えるのはムリないが.....実は....奉納する神楽っていうのは村に伝わる言い伝えをもとにしているんだ......」
「言い伝え?」
「そうだ....」
昔..昔の話し....
師走の中頃のある日、村の庄屋の家の前で一人の旅の女性が倒れていた。庄屋さんはその女性を家に入れて懐抱した。すぐに女性は元気を取り戻し、女性は純(すみ)と名乗り、旅の舞師だったので、お礼にと村の広場でその舞を披露していた。お純の美しさはすぐに村中の評判になった。
暮れも押し迫った日に庄屋の家に龍神様からお告げがあった。