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栗花晩景
【その他 官能小説】

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芽吹き編(1)-1

 高校には中学と比べると様々な個性を持った生徒が入ってくる。人数が多いこともあるが、通学範囲も広く、育った環境、地域性の違いなどから、これまで出会ったことのない雰囲気を持つ者もいた。
 青々とひげ剃り痕をを残した小暮は、
「本当は一日二回は剃りたいんだ」
午後になると顎をじょりじょり撫でながら言ったものである。身長も百九十ほどもあって、とても同い年とは思えなかった。
 チンピラ風の中本は入学一週間後に卑猥な写真を級友に売り歩いていた。女の局部を拡大したものや、男女が結合した写真である。
(すげえ……)
初めて見た時は驚きを通り越してしばらく言葉が出なかった。和服のちょっと太った女が股を開き、自らの手で性器を広げている。モノクロとはいえ初めて見た『アソコ』は衝撃であった。
 真っ黒な陰毛に囲まれた、口よりも大きな割れ目。私や古賀のように想像の世界をうろうろしているレベルではない。
 古賀とは別のクラスになったので、情報を交換しては昂奮を高めたり、また呆れたりもした。
 中学とは比較にならない多種多彩な刺激が飛び込んでくる毎日。クラスの何人かはすでに経験があるらしく、その真に迫った話に私は釘づけになった。

 古賀は予定通りブラスバンドに入部した。私も誘われていたが二の足を踏んでいた。もともと音楽は好きではないし、楽譜も読めない。曖昧な返事で濁していた。

 一か月ほど経った頃、古賀がなぜこの学校を選んだのか、また、ブラスバンドなのか、それらしい理由に思い当たった。同じ中学から大村真理子が入部していたことがわかったのである。真理子は同級生ではなかったが、古賀が好意を抱いていた女子である。以前、彼は隠すことなく、
「学校で一番好きだ」と言ったことがある。自慰の時に思い浮かべるのは必ず彼女だとも言った。
 真理子がいることを私は入学後に知ったのだが、古賀は事前に彼女の進学先を知っていたのではないか。彼女は中学の吹奏楽部でクラリネットを吹いていた。高校でもブラスバンドに入ることは予測できることだ。
(少しでも彼女に近づきたい……)
そんな理由で高校を決めるなんていささか無理にも思えるが、古賀なら執着しても不思議ではないように思えてならなかった。

 真理子とは口を利いたこともなかったが、互いに顔を見知っていたので、会えば挨拶をするようになった。改めて見るときれいな子だった。スタイルもいい。胸や腰の膨らみはかなりの量感がある。
(いいな……)
誰彼なく女の子が眩しく見える頃である。古賀が毎日真理子と一緒だと思うと羨ましくもあったが、結局私はどこの部にも入らなかった。


 中本がやってきて、二千円で女を抱かないかと言ってきたのは夏休みも間近のことだ。抱く、といっても、ペッティングという意味である。
「時間は一時間。本番以外は何をしてもOKだ。安いだろう?」
安いだけに屋外だという。
「ホテル使っちゃ高くつくからな」
 私は震えるほどの昂奮を覚えながら即座に承知した。当時二千円は一か月分の小遣いである。その時は千円もなかったが親に何か理由をつけて工面しようと思った。

(女の体に触る……どこを触っても自由だという……)
「どんな相手なんだ?」
「心配すんな。ヤバイ相手じゃねえよ。ダチのスケなんだけどよ。金がいるんだ」
 自分の彼女を見ず知らずの男に触らせる。とても理解できない神経である。
一抹の不安はあった。しかし、視覚や想念の世界から一気に触覚を体験できる願ってもない機会が訪れたのだ。迷うことはできない。中本はワルだが、級友をだましたりはしないだろう。

「もう一人女がいるんだが、誰かいねえかな」
頭に浮かんだのはもちろん古賀である。すぐに当たってくれと中本は言った。
「今度の土曜日だ。いろいろスケジュールがあるからよ。場所と時間はそれまでに知らせるから。前金だぞ」
 さっそく古賀のクラスに向かいながら、考えてみると土曜日といえばクラブ活動の最も盛んな日である。平日より時間があるし、翌日は日曜日なのでどの部も遅くまで練習している。そんな日に帰ることができるのか。中学と違って先輩も怖いし、規律も厳しいようだ。

 だが、私の話を聞いた古賀は不気味なほどの目の輝きを見せ、
「俺、学校休む」と、いとも簡単に言った。
学校へ来ていてクラブを休むわけにはいかない。たとえ熱があってもそれは言えない雰囲気だという。
「だから休めば問題ないんだよ。それしかないよ」
「親には何て言うんだ?」
仮病で休んだとしても、その後どうやって家を出てくるのか。帰りは夜になるだろうから、親は黙っていないだろう。
「病気で休んでてそれはまずいよ」

 古賀はだいじょうぶだと言い張ったが、私は不自然な行動からこのことが露見しないか心配だったのである。遅くまで何をしていたと詰問されて、何とかごまかすことができたとしても不審に思われるのは避けたかった。
 私はいくつかの案を出し、結局、理由をつけて早退することにした。そしてどこかで時間をつぶし、いったん帰宅する。クラブは休みだと言えば親は実情を知らないから疑うことはないだろう。
「東京の映画館に行くことにしよう。それならどうしても遅くなる」
古賀は私の提案を了承した。

 翌日四千円を渡すと、中本は待ち合わせ場所や相手の名前を書いたメモをよこした。
「ペッティングだけだぞ。入れるなよ」
そう念を押して鋭い目つきを見せた。


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