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夏のざわめき
【OL/お姉さん 官能小説】

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夏のざわめき-3

「相手の人は女房子供がいるのかい?」

「ううん、そんなんじゃない…ただ私は結婚するつもりないの。」

それについての母子の会話とは、要約してその程度のものだった。
常々に思う事なんだけど私が高校に進学して、そうして東京の大学に行けたのも誰かの援助があってこそだと思う。

そうでなければいくら田舎でも食費はともかく、母子家庭で学費までは捻出できるはずもない。
少なくとも隣のおじさんではない誰かが私を学校へ行かせてくれたのだ。

私がこの子を産んで私生児として育てる事に不憫にも母は反対とは言えない。
私が現に母の元で不自由なく育っているからだ。
しかしながら、東京とこことは事情が違うわけだし東京では母のように身を寄せる場所などもちろんない。

母の心配を思えば、私は底知れず母が不憫に思えてここで初めて親不孝の意味を知る。

私がこの土地を出ようと思った理由は母の情事だけが原因ではない。
胸が膨らみ始めた頃に隣のおじさんが「ほほう…」と指先でぺこりと乳首を押したのだった。

私も母みたいにこのおじさんとセックスしなければならない…
そんな気がして以来、おじさんが少し怖くなった。
だけど、言っておくが私は優しいおじさんが嫌いではない。
久しぶりに会ったおじさんはずいぶん年をとっていて、そうした古いしがらみを全て許す事ができたのだ。



郷里は夏の奉納祭の支度に賑わっていた。
ここには夏だけ二回お祭りがある。
地元の氏神様には初夏と秋にこじんまりと奉納するが夏には近隣の集落と合同で大きなお祭りを開くのだ。

この土地の一大イベントで祭りのクライマックスには捻り鉢巻き褌姿の男達が山の中から何十人がかりで巨大な御神体を担いで神社に奉納するのだが、それは巨大なペニスに見立てた大木で高校生ぐらいにもなれば女の子たちは気恥ずかしくて顔も出せないのだ。

郷里に帰って私は久しぶりにそれを見物に出かけた。
東京で暮らす人たちがみな語る懐かしさなど微塵もなく、ただの田舎の奇祭にしか見えなかったがテレビ局までも駆けつけて、たいそうに賑わっていた。

祭のメインイベントが済んでしまってもお囃子の音は鳴り止まなかった。
母は私の手を取ると、月灯りに照らされた鎮守の裏通りを回って帰った。

母の手は絹のように柔らかく冷たい。
私はもう、おなかの子の事について何も話したくなかった。
だけどこうして仄蒼く浮き上がる径を母と歩けば、この回り道だけは何でも話していいような気がした。

母は何も訊かず、何も話さなかった。

鎮守の杜の裏側は径から少し逸れて傾斜がかかっていた。
それは鬱蒼として眼が慣れていなければうっかり踏み外してもおかしくない。

母はなぜ、わざわざそんな足元の悪い道を散策する気になったのか柔らかな手を握りながら私は思っていた。


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