その(五)-1
その頃は別のマンションに住んでいた。
「君は初めてオナニーしたのはいつ?」
出し抜けに訊かれて苦笑した。
「中二かな」
「ぼくは中一の夏……。父親が死んで、あの女と二人きりになってからだ……」
栗田はどこか遠くを見透かすように目を細めた。
「刺激的だった……」
今日の格好などまだ大人しい方だ。
「君がいるからな」
ふだんは下着も着けない。
「風呂から出ると何も着ないでそのままさ」
暑い日は胡坐をかいて扇風機に当たっていた。思春期真っただ中の中学生がその体を見せつけられてどうなるか。『他人の女』の全裸が湯上りの熱い匂いを振りまいているのである。想像、妄想を超えた赤裸々な現実。生身の肉体は魔力だった。
美穂は子育ての経験がない。
「あいつはぼくをまだまだ子供と思っていたんだろうな」
連日の強烈な刺激が成熟を早めたのかもしれない。ある晩、風呂に入っていて直前に垣間見た女の裸体を思い出しながら異様な硬直をみた。擦ってみると痺れを伴うとてつもない快感が走った。膝をついて夢中でペニスを扱いた。
(気持ちいい……)
朦朧としてきた直後、上体が弓なりになって迸った。その時、浴室の扉が開いて美穂が顔を覗かせた。慌てたが、まだ噴出を続ける体は制御が利かない。前屈みになって体を捩るのが精いっぱいだった。
美穂は間もなく黙って扉を閉めた。痙攣が治まっていく中で恥ずかしさに顔が火照ってきた。
「自分では憶えてないけど、きっと声を出していたんだと思う」
美穂が栗田の布団に入ってきたのは翌晩のことである。
「これから二人で暮らしていくのよ。仲良くしていくんだから、言うこと聞いてね」
生臭い口臭を吹きかけてきて唇を重ねてきた。
「ああ、可愛い……そういう年頃だったのね」
唇だけでなく、鼻、頬、耳、顔中を舐められた。
布団を剥がれ、電気が点けられた。美穂は全裸である。
「いいこと教えてあげる……」
寝たままパジャマを脱がされながら、栗田は不思議な気持ちになったという。
嫌悪感はない。羞恥心も起こらなかった。ペニスは勃起していて昂奮しているのに、頭のどこかに冷静な空間があるような感覚があった。
「きれいな体……」
息を乱しながら美穂は栗田の胸や腹に頬擦りをして声を上げた。まるで泣いているように聞こえた。
やがて幼くも目いっぱい反り立ったペニスをそっと握った時、美穂の顔面は紅潮し、昂ぶりを抑えかねてか、唇が微かに震えていた。
「昨日、初めて出したの?初めてだったの?」
顎を引いて頷くと、
「そう……」
そしてまだほとんど皮に被われている先端を剥き始めた。
「痛くない?」
栗田は返事をしなかったが美穂は動きを止めることなく一気に剥き上げた。
風呂に入る時はいつも自分で捲って洗っていたから慣れてはいたが、女にされたことはないし、言うまでもなくそこはとても敏感なところだ。
いきなり口が付けられて快感が一閃した。
「ああ!」
栗田が呻いたのと美穂が跨って自ら押し込んだのとほぼ同時という素早さであった。
挿入の実感はなかった。ぬらっと柔らかさに包まれたと思ったら射精していた。
「ああ、出てる、当たるわ、当たる」
美穂が被さってきて苦しくなるほど抱き締められた。
「それが初体験さ」
栗田は人ごとのように淡々と言った。