その(四)-2
何度もホテルで愛し合っていながら、私たちはこれまで一緒に風呂に入ったことがなかった。
ここにはバスタブではない立派な風呂がついている。
「達也、一緒に入ろう。洗ってあげる」
私たちは部屋ですべてを脱ぎ去って寄り添った。
「達也、逞しくなったね……」
私の体を洗いながら舞子は言って、顔を赤らめた。中学の時から身長は十センチ以上も伸びた。そのことを言うと、
「それもそうだけど」
舞子はそそり立つペニスをぎゅっと握った。掌を押し返してぐんと漲る。
舞子の手は股間の隅々まで入り込んでくる。
「感じちゃうよ」
「あたしもよ」
うっとりした眼差しを向けてくる。そんな時の表情はとても愛らしい。
「今度はぼくが洗ってあげる」
私たちは深遠な性の世界へ潜りこんでいった。
抜き差しを覚えた私に合わせて舞子も下腹部を迫り上げ、ペニスを絞りながらのけ反って、
「達也!愛してる」
「舞子」
目眩めくうねりに大きく翻弄されていく。
「スキン、着けないでいいから」
がっしりと脚を絡ませてぐいぐいと押しつけてきた。
「ああ!だめ!」
ペニスが撓るばかりに絞られて舞子が昇っていった。
放心して、いつしかまどろみ、またもぞもぞと動き始める。繰り返しても繰り返してもまだ何かがありそうな気がして舞子を抱いた。
「達也」
「うん?」
「結婚って、考えたことある?」
「……ないよ」
「そうだよね」
「舞子はあるの?」
「うん……いつか、いつかだけど、達也と出来たらいいなって……」
「でも、親戚だよ、ぼくたち」
深い知識などなく、ただそんなことをどこかで聞いたことがあった。
「従姉弟はいいのよ」
「そうなの?」
でもそうなったら親に何ていえばいいのだろう。何だか言いずらい。漠然とそんな不安を抱いた。
「達也は、あたしじゃいや?」
「いやじゃないよ。好きだよ」
舞子の顔にすっと翳が差した。
「大好きだよ」
「毎日いっしょにいたいね」
「うん」
本当にそうなったらどんなにいいだろうと思った。
「達也が大学いって、卒業して、就職して……。それからだね」
「うん……」
私にとっては思い浮かべることの出来ないほど遠い話に思えた。
「ずいぶん先だけど……」
舞子は言葉を切って私に重なってくると、それきりその話はしなかった。
そこまで言っていた舞子が黙ってアメリカに行った。
「どのくらい行ってるの?」
「さあ、どうかしら。全部自分で決めちゃったらしいから。奨学金が一年間出るっていってたから、そのくらいは行ってるんじゃないかしら」
両親の反対を押し切って半ば喧嘩別れのように出て行ったという。
それからしばらくしてショックが通り過ぎたあと、私の心には無味乾燥な空洞が生まれていた。