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淫靡眼
【その他 官能小説】

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その(四)-1

 四月半ばのことである。
「語学留学だって。舞ちゃん英語が得意だからね」
母の言葉に耳を疑った。舞子がアメリカに?……
「もう行ったの?」
「昨日出発したって伯母さんから電話があったわ」

(そんなはずはない……)
とても信じられなかった。初めて二人で一夜を共にしてまだひと月も経っていないのだ。抱き合って眠り、体の温もりを感じながら朝を迎えた秘密の旅行。……
(その時、そんなことは何も言わなかった……)
 正月は甲府へ行ったものの、大学受験が間近に迫っていた舞子は挨拶に顔を見せただけでろくに話もできなかった。
「試験が終わるまで会えないわ」
微笑みを交わすだけの淋しさは苦しくさえあった。
「その代わり、春休みにどこか泊まりに行こう」
「泊まりに?できるかな」
「何とかなるわよ」

 だが、その後舞子は希望の女子大に落ちてしまって、今後のことも未定だったので私の気持ちは複雑であった。

ーー叔母さん、落ちちゃった。
母への電話で舞子は明るく言ったそうだ。
ーーひとつ受かったんだけど、やっぱりそこはいきたくなくて。
「あとで後悔しないように、慌てて決めなくてもね」
伯父も伯母も理解があって、一年浪人してもいいと言っているようだ。
 ひとしきり話したあと、電話が私に回ってきた。
「舞ちゃんが、元気ですかって」
 代わって、わざとらしい挨拶をすると、舞子は早口で話し始めた。
ーー返事だけして。三月○○日、泊まるとこ予約した。もう休みでしょ。何とか理由を考えて来て」
「うん」
そして待ち合わせの場所と時間を言った。
ーーいい?お金はあたしがあるから大丈夫。わかった?
「はい」
ーー交通費はある?大月まで。
「うん」
電話を通して聴く舞子の声がとても大人っぽく聴こえた。

「舞ちゃん、何だって?」
「うん……勉強しなさいって」
「そうよ。いつも言ってるでしょ。舞ちゃんみたいに出来たって落ちることがあるんだから。大学受験まであっという間よ」
母があれこれ言うのを聞き流しながら家を空ける口実を考えていた。
 思いのほか問題はなかった。旅行などと意識しなければいい。友達の家に泊まる。それで済んだ。高校ともなると近所の友達はいない。親同士の繋がりもほとんどないから余計な説明もいらなかった。

 舞子が選んだのは河口湖畔の老舗旅館である。
丁重な従業員の出迎えに思わず顔を伏せて舞子にくっついていった。とても『子供同士』で来る雰囲気ではない。舞子がフロントでなにやらやり取りをしている間、私はロビーの椅子で小さくなって待っていた。落ち着いた彼女の態度を見て、やっぱり年上なんだとつくづく感心した。

 八王子のホテルに泊まれば安いのに……。
「ここ、高いんでしょ?」
「心配しないで。達也と思い出を作りたいの……」
部屋の窓から湖が一望できる。早春の白い富士山が青空の中に輝いていた。
 思い出……。私はそれを愛の言葉と受け取った。だが、 
(あの時、もう決心していたのだ……)
いや、決心はもっと前だろう。渡米の準備はすべて出来上がっていたのだ。
なぜ言ってくれなかったのか。私を気遣ってくれたのか。辛かったのか。わからない。
 様々な想いが交錯する中で過ごした夜を思い出すと舞子はいつも以上に情熱的だったように思えてくる。
 


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