和州記 -一紺ガ女--9
「後ろ向いて、壁に手ぇついて」
言葉通りに竜胆は後ろを向いて壁に手をついた。
「手の位置はもーちょい下かな。尻突き出してみ」
「こ…こう、か?……はぁ、あん!」
戸惑いを含んだ声が快感の喘ぎに変わったのは、一紺が硬くなった一物を後ろから竜胆に突き挿れたからだ。
「こんな格好でってのも燃えるやろ」
笑いながら一紺が腰を動かす。
深く突いたところで、竜胆が高い声を上げた。
「あ、やッ、そこ…!!」
「此処な」
先程突いた場所を再び深く突く。
「ひゃうッ、ん!やッ!あああッ!」
愛液が股を伝い、玉の汗が床に飛び散った。
「も一回、イカしたる」
肩で息をする竜胆にそう声を掛けてまた腰を振り始める。
肉襞はそれこそ絶え間なく一紺を締め付けて、快楽の頂点へと誘う。
「あ…く、んぅ…あぁッ」
「く…ッ」
快感に顔を歪めて、彼は言った。
「中、出すで」
頷く竜胆。腰を早めて、一紺は例の場所を再度突く。
迸る汗と嬌声。
絶頂を向かえた二人は、繋がったままその場に崩れ落ちた。
一紺はずるりと自身を抜き、竜胆を抱き寄せた。
座ったままの状態で、二人は互いの身体にもたれ掛かる。
「…なあ、竜胆」
荒く息を吐いて一紺は自身を落ち着かせると、竜胆の額に口付けし、笑う。
「俺がこういうこと得意なのは、お前を悦ばせてやりたいから…ってのは?」
「…悔しいな」
竜胆が一紺の腕の中でぼそりと呟いた。
「私だけ、いつも気持ち良くして貰ってばっかりなんて…」
一紺は竜胆の頬を軽く撫でながら言った。
「俺は悦ぶお前を見るのが楽しいんや」
「…」
竜胆は少し気恥ずかしそうに一紺から顔を背ける。
しかし、次の瞬間彼の顔を両の手で包んで、唇を唇にそっと押し付けた。
「ありがとう…」
はにかんで、竜胆は一紺の胸にしなだれかかった。
一紺はそんな彼女の肩を優しく抱き、思った。
(撫子には悪いけど…来世でも、竜胆に敵う女はおらん気がするわ…)
彼女の体温を感じながら、一紺は呟くように言う。
「…愛してんで、俺の女」
まだ薄暗い朝。
始終、月明かりが二人のもつれ合う影を写し出していた。