投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

和州道中記
【その他 官能小説】

和州道中記の最初へ 和州道中記 18 和州道中記 20 和州道中記の最後へ

和州記 -茸奇譚--1

暮れなずむ片田舎の道。
頭に手拭を巻いた男と、暗緑色の髪を結った女の姿がそこにあった。
諸国を旅している一紺と竜胆の二人は、誰一人として通らないその道を歩いていた。
暫し道を歩くと、前方に小さな村が見える。
竜胆は懐の地図を取り出して、言った。
「良かった。間違ってなかったみたいだ」
「ほんまか?今日は野宿せんで済みそうやな」
「全く…誰かさんに地図を任せるととんでもないところに着くんだからな」
彼女の言葉に一紺は苦笑し、そして二人は村を目指して足を速めた。

村には宿が一つ…客は二人以外に誰もいないようで、店の年老いた女主人は快く二人の泊まる部屋を用意してくれた。
「一部屋で良いんですか?」
金に余裕が無いのが旅人だ。大抵は二人で一部屋を借りていた。
今日のところも同じで、安いからとはいえ安易に無駄遣いをしないと二人の間で決めていた。
それ以外にも二人が同じ部屋で寝る理由はあるのだが…それを訊くのは野暮なことだ。
「分かりました。後程夕食を用意しますのでな」
「ありがとう」
朝夕の飯付き宿屋の女主人は言って、二人を案内した後、部屋を出て行った。
その背を見やりながら竜胆は笑む。
「布団に飯。宿屋って、いいもんだな」
それを聞いて、一紺は変わった訛りでもって苦笑交じりに言うのだった。
「意地悪うなったな、お前」

「…ごっそさん!ああ、食った食った!」
楊枝を咥えながら、一紺は腹を叩く。
あの後、すぐに主人は飯を持って来てくれたのだった。
「ごちそうさま」
竜胆も丁寧に箸を置いて、茶碗を重ねる。しかし、皿にはまだ肴が残っていた。
「ん?それ、茸(きのこ)。竜胆、食わへんのか」
「ああ…苦手なんだ」
それは、茸の煮付け。芋と一緒に煮てあるそれは、味がよく染みていて美味そうだ。
一紺は「貰うで」と、それをひょいと楊枝で刺して自分の口へ放り投げた。
「美味いのになぁ」
「苦手なものは、苦手なんだ」
言って竜胆は器に残った水を飲み干した。

例えば百合やとりかぶとのような有毒植物と言うのは、大抵は腹痛だとか麻痺だとかの中毒を引き起こす。
茸にも毒を持ったものは多数あるが、中には笑いが止まらなくなったり幻覚が見えたりするものもある。
酷いものなら死に至らしめるものもあるのだ。
毒茸とは、本当に恐ろしいもので…。

食休みに他愛ない会話を交わしていた二人であったが、急に一紺が自分の言葉に全く応じないのに竜胆は気付いた。
「一紺?」
横になって、彼女からは顔を背けている一紺。
(寝てしまったのか)
「仕方ないな…何も掛けないで寝たら風邪を引くだろうに」
竜胆は立ち上がり、部屋の隅に置いてある布団の山に手を掛けた。
そして布団を敷こうとした、その時だった。
強い力で腕を掴まれ、きちんと敷けていない布団の上に投げ出される。
一紺は竜胆の身体にのし掛かり、彼女の首筋に顔を埋めた。
「な…いきなり何だ!?」
押し倒された竜胆はそう一紺を非難する。しかし一紺は悪びれもせず、竜胆の細い顎を持ち上げ、言った。
「決まっとるやろが…」
「ん、むぅッ」


和州道中記の最初へ 和州道中記 18 和州道中記 20 和州道中記の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前