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和州道中記
【その他 官能小説】

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和州記 -一紺ガ女--7

言い掛けた一紺の唇に、竜胆は己のそれを押し付けた。
彼が妙な声を出したのは、彼女にいきなり胸ぐらを掴まれたからだ。
竜胆は唐突に彼の胸ぐらを掴み、その唇に強引な口付けをしたのだった。
そして、彼女は呆然とする一紺の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「好きだ」
桜色の唇が言葉を紡ぐ。
瞬き一つせずに、竜胆は一紺を見つめた。
一紺がごくりと喉を鳴らす。
「り…」
「…そう言ってくれた、よな?」
どうやらそんな続きが、言葉の後ろにあったようだ。
思わぬ肩透かしを食らい、一紺は鼻白む。
(…そら、こいつの性格からして『好きだ』なんて言ってくれるわけない…か)
竜胆は、一心に彼の瞳を見つめる。
「今は…今は私のことを、どう思っている?」
問いかける彼女の言葉はどこか必死で、一紺は思わず笑みを浮かべて竜胆を抱き締めた。
そして、そっと呟くように答える。
「今も、愛してんで」
「…そう、か」
愛してる、の台詞が恥ずかしいのか、言った当人よりも言われた方が顔を赤くさせた。
一紺は、顔を背けた彼女に向かって笑いながら言った。
「はは、照れんなや」
照れてなんかいない、と竜胆。
それが嘘だと、一紺も分かり切っていた。
「…なあ、俺な」
笑いながら、一紺は言った。
「さっきお前が、『好きだ』言うてくれるかて、思ったで」
「好きだよ」
冗談混じりだった一紺の言葉。
しかし間発入れずに竜胆はそう答えた。
思わず目を瞬かせる一紺。
「…好きだよ、お前のこと」
静かにはっきりと、竜胆の些か低い声が一紺の耳朶を打つ。
訪れるは沈黙、流れるは緩やかな時間。
竜胆が先に口を開いた。ほっと、安堵したような表情を浮かべながら。

「…お前が、まだ私のことを好きでいてくれて、良かった」
そんな彼女を抱き寄せて、一紺は言った。
「当たり前や!…今も、これからも、ずっと愛してる」
竜胆も彼の背に手を回す。
軽く、二人の唇が触れた。
何回か軽く優しい口付けを頬や額に落として、一紺ははにかみながら首を傾げて竜胆に請う。
「…せえへん?」
彼女は小さく首を横に振り、答える。
「今は…もう少しこのままでいたい」
彼の胸に身体を預ける。
逢瀬で得るものとはまた違う心地良さ。
目を閉じてそれを感じながら、二人の時間は過ぎて行った。


…気付けば、空が白みかけていた。
目を覚ました竜胆は、己が一紺と抱き合ったまま眠ってしまったことを思い出す。
苦笑し、竜胆は一紺を起こさぬようにそっと彼の腕から抜け出した。
彼の身体を横に寝かせて、その上に竜胆は敷布を掛けてやる。
安らかに眠る一紺を見て彼女は笑みを浮かべると、そっと立ち上がり、何となく部屋を出ようとした。


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