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和州道中記
【その他 官能小説】

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和州記 -一紺ガ女--6

「ね、イキそ?」
その言葉で、脳裏に浮かんだ彼女の表情は掻き消される。
気付けば現実に与えられていた快楽により、一紺のものはかなり大きくなっていた。
それなのに、反り上がっていたそれはたちまち萎えて行く。
急激に彼を襲ったのは、罪悪感。今まで生きていた中で一番の後ろめたさを感じた。
一紺は目が覚めたように何度も瞬きをする。
撫子は苛立ったように、一紺を睨み付けた。
「ん…もう!どうしたってのよ、ねえ…」
そして、ふと一紺の様子に気付く。
一紺は、呆けたように天井を見つめていた。
彼の心を満たしていたのは、罪悪感と空虚。
心に浮かぶのは、ただひとり。
「…謝らな」
一紺はぼそりと呟いた。
彼はいきなり起き上がって、撫子の前に土下座した。
「撫子!」
彼女は、突然の彼の行為に驚く。
「此処までやっておいて…でも、ごめん。俺、やっぱり…」
「ん、分かった」
撫子は、言った。
「…気付いてたよ、最初っから。分かり易いったら、ないんだもん」
「…撫子」
着を悪くしたふうでもなく快活に笑う彼女に、一紺の心が痛んだ。
「一紺てば、してくれてる最中もしてあげてる最中も、心は此処にないんだもん」
撫子が微かに哀しそうな表情を見せた。
しかし彼女はすぐにまた明るい顔で言う。
「何だかさぁ、負けるとか負けないとかそーゆー問題じゃなかったんだね。あたしははなっからあの竜胆って女に負けてたんだよねぇ。一紺の心は、ずぅーっとあっちに行ってんだもん」
「俺、あいつを愛してんねん」
撫子はそれを聞いて、むくれたような表情を見せた。
「知ってるよぉ、見てれば。でも、いいんだ。駄目もとで誘いかけただけだし、ね。それにあたしにはまだ男がいっぱいいるんだからッ!」
言って拳を握り締める彼女を見て、一紺も笑った。
「はは、強いわ、撫子」
「でしょお?でも…今は無理でも、いつか一紺を絶対あたしから離れられないようにしたげるからね!心も、身体もッ!」
力の入った彼女の言葉に一紺は苦笑した。




「竜胆ッ!」
それから、撫子の宿を出た一紺は一目散に二人で取った宿屋へと駆けて行った。
そして宿に戻った一紺は、勢い良く部屋の襖を開ける。
しかしそこには誰もいない。
「り…ん…」
遅かったか。
一紺は項垂れ、ただ愕然と呟いた。
後悔しても遅いのは分かっているが、冗談でもあんなこと言うんじゃなかった、と後悔せずにはいられなかった。
『少し頭冷やして来たらええのと違う?』
『…お前も、どこでも行ったらええ!』
己の言葉と竜胆の傷付いたような表情が頭に浮かぶ。

「…何してる」
ふと、後ろから聞き慣れた声。
一紺は振り向くと、くしゃりと顔を歪ませる。
「竜胆…行ってなかったんか!」
「出て行くと思ったのか?…荷物に先に気付け」
先程の自慰のせいもあって、決まり悪そうに頬を掻き、竜胆は部屋の片隅に纏められた荷物を指差した。
一紺は安堵に胸を撫で下ろす。
そして竜胆に向かってひたすら頭を下げた。
「ごめん…本当にごめんな、竜胆。撫子のことは…本当に何でもないんや。言い訳やないで」
顔を上げて、彼は懇願するように言う。
「信じてや」
竜胆は静かに彼を見つめて首を横に振った。
「お互い様だ。私こそ、悪かった。お前を信じてやれなくて…信じるって、言ったのに」
「そんな…俺だって。俺、本当にお前が行ってしもたかて……おわッ?!」


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