投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

和州道中記
【その他 官能小説】

和州道中記の最初へ 和州道中記 10 和州道中記 12 和州道中記の最後へ

和州記 -一紺ガ女--2

旅人である二人が出会うのは、何も新しい人々だけではない。
古い友人や、見知った人間にもたまにではあるが出会ったりする。
そういう時は大抵嬉しいものなのだが…。
「うわぁ、やっぱり!一紺、だよねぇ?!きゃ、久しぶりッ、こんなところで会うなんて、運命?!」
「…撫子(なでしこ)」
金色に染められた髪と、赤茶の瞳。
表情はあどけないが、それを裏切るかのような豊満な身体つき。
派手な色の着物を短く着たその女は、格好や話し方から、ひどく軽い印象を受けた。
女の勘か、竜胆は彼女の言葉ですぐにぴんと来た。
(昔の、女)
「元気そうやな」
「えへへ、そう見える?でもさ、一紺と別れて随分経つよねぇ〜!もう、三年くらい?」
からからと笑う女――撫子。
予期していたとは言え、その言葉に竜胆が微かに眉間に皺を寄せた。
そして彼女の眉間の皺は、次の言葉で更に深くなる。
「それでも、あたし、一紺を忘れたことってなかったよ」
「!」
「駄目なんだよねぇ。誰に抱かれても、一紺ほどに愛せないの」
「な、撫子…」
一紺は、ちらりと後方の竜胆を見やる。
彼女はただ静かに…『負の気』を発していた。
それに気付いた撫子は、竜胆の前に歩み寄る。彼女は一紺に向かって訊いた。

「これ、今の女?」
(『これ』、だと?)
竜胆は顔を顰めた。
彼の返事も待たず、竜胆の顰め面も気にせず、撫子は竜胆を見てぼそりと言う。
「…ちっさい胸」
「ッ」
流石に竜胆は何か言いたげに撫子を睨む。
一紺は黙然と竜胆の背後に歩み、彼女の着物の懐を寛(くつろ)げた。
白いさらしが露わになる。
「違う違う。小さく見えんのは、さらし巻いとるからや」
「ば、馬鹿!」
一紺の頭を軽く叩いた竜胆は、慌てて襟元を正した。
そんな様子を見ながら、撫子は竜胆に向かって言う。
「ふぅん。それでも…」
彼女は、己の豊かな胸を強調して勝ち誇ったように言った。
「絶対、あたしの方が大きいもん!」
「…」
静かに、怒っている。
竜胆の表情を見て、一紺はそう感じた。

竜胆は、小さく息をついて言う。
「…ただ大きいだけと言うのも、どうかな」
ぎょっとする一紺。挑発的な言葉に、撫子の額に青筋が浮かぶ。
「小さいよりは、ましなんじゃない?」
双方から発せられるただならぬ気に、一紺はただただ戸惑うばかりであった。
二人の間で散る火花が見えそうだ。
撫子は視線を一紺に移し、今の今までの怒気がなかったかのように笑んで言った。
「一紺ッ」
「は、はいぃッ」
びく、と思わず肩が上がる。
「あたし、負けないッ!絶対あたしの方が、身体から性格から何もかも良いって思い知らせてあげるわ!!」
やはり己の胸を強調しながら言う撫子。
額に汗を浮かべる一紺、青筋を浮かべる竜胆。
「負けないから――ぺちゃぱい女!」
最後にそう言い残して、撫子は去って行った。
竜胆は、暫し黙っていたがふと口を開く。
「一紺」
「は、はいぃぃぃッ?!」
「…宿を取るぞ」
青筋を浮かべたままで、竜胆は宿屋の方へずんずんと歩いて行った。
その背を見つめ、彼女の後を追いながら一紺は呟く。
(…えらいことになってしもた…)


和州道中記の最初へ 和州道中記 10 和州道中記 12 和州道中記の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前