その(三)-1
大人の扉を開いてしまった青い性。それは潜むことを知らず、打ち寄せる波のような切れ目にない好奇心に満ちていた。経験したといってもまだ知らないことばかりである。舞子の体への興味は横溢するばかりであった。
台所で片付けものをする舞子の後ろから抱きついて胸を揉む。体をくっつけて股間を押しつける。
「待って、すぐだから。だめよ」
舞子の横顔は少しも困った風ではない。笑っている。洗いものを途中でやめると向き直って口づけに応じた。
抱きしめたまま倒れ込もうとすると、
「待って達也。洗ってこないと。さっき出てきたのよ」
「?……」
舞子は私の腕を掴んで押しとどめた。母が来ていた時、精液が洩れてきたのだという。
「洗うから、ね。それからにして」
言い聞かせるように年上の顔をみせた。
(大丈夫かな……)
いっぱしに妊娠の心配が掠めたが、実感などない。スキンの知識はあっても彼女にも深刻な危機感はなかったと思う。感情の赴くまま結ばれた感動に支配され、そのことしか頭になかったと思う。
「達也の精子があたしのおなかに入ったのよ」
嬉しそうにそんなことを言っていたくらいだ。
風呂場から戻ってくると、舞子はジャージに気がえていた。シャツは部活の物らしく胸に校名の刺繍がしてある。
「着替えたの?」
「この方がすぐに脱いだり出来るでしょ」
(ブラジャーをしていない……)
乳首がくっきり突き出ている。新鮮な膨らみが眩しかった。
「達也も洗ってらっしゃい。…いいことしてあげるから……」
舞子は目を細めて微笑んだ。あの『臭い』が流れてきた。
知識も不完全なのに、私たちはあれこれ稚拙な性戯を試みた。本や雑誌で読んだり、聞きかじっただけの夢想の中にあった異性の肉体。舞子に触れていながら現実が夢想の世界にも思えた。
いいこと、とはフェラチオのことであった。
舞子は私を仰向けに寝かせ、
「知ってるでしょ?」
そう言うとあちこちからペニスを眺めた。まださほど濃くない陰毛を摘み、袋を揉んで、
「玉って、ほんとに二つあるんだね」
性感が刺激され、私は息を詰めて伸びあがった。
「感じるの?」
「うん……」
やがて唇が近づき、暖かく包まれた。
「ああ……」
見ると舞子は目を閉じて眉間に皺を寄せて咥えている。
(口に入ってる……)
性交とは別の感動である。
(気持ちいい……)
とろけるような快感が広がっていく。午前中の二度の射精が快感を味わうわずかな余裕を生んでいた。
舞子はほとんど動かず、頬張ったまま時々歯が当たって痛かった。後から思えば彼女も初体験だったのかもしれない。
「気持ちいい?」
口を離したのを機に、私は起き上がった。
「今度はぼくがする」
舞子は座ったまま脚を伸ばしてジャージとパンツをいっぺんに脱いで、
「外見て。誰も来ない?」
立ち上がって見える限りの道を辿った。
「誰も見えない」
膝を折って脚を開いた舞子はさらに手で膝を引きつけた。すべてを見せる格好である。目を閉じて落ち着いた顔に見えるが口は固く結んでいる。
間近に顔を寄せて、なんと不思議なものかと思った。毛に包まれた肉まんみたいなふくらみが割れ、内側に鶏のトサカのような扉がある。その奥はピンク色で透明な液でいっぱいだった。
その中にキスした。
「ああっ、気持ちいい……達也……」
舌ですくって液を飲んだ。仄かに石鹸の香りがするが、暗い湿地帯のような臭いもする。ふいに襲ってきて精通に繋がった『臭い』とは何かが違うが、私は感じる『臭い』の根源が陰部なのだと思い始めていた。なぜなら他に似通った臭いは思い当らなかったから。
だが、
(嗅いだこともないのに、なぜ……)
それがわからなかった。
「達也、入れて……」
いつ用意したのか、差し出した手にスキンがあった。
「それ、自分で買ったの?」
「お母さんのタンスにあるの」
「ほんと…ばれない?」
「いっぱいあるから。前に通販で買ったのよ。あたしがいる時に届いたから知ってるの」
「うちにもあるのかな」
「そりゃそうよ。みんなするんだから」
伯母の顔が浮かび、両親がセックスする姿を想像したがぴんとこなかった。
「達也、胡坐かいてみて。座ってするの、知ってる?」
こういうやり方もあると言い、跨って腰を落としつつ連結を試みた。局部はよく見えない体勢だが、濡れた裂け目は少し宛がいがずれても吸い込まれるように納まった。
「ああ、達也、入った」
根元まで完全に挿入された圧迫が伝わってくる。その上舞子の尻が股間にずしりと乗ってきて肉感が張り付いた。目の前には乳房が迫り、互いの息づかいも交差する。
「舞姉ちゃん……」
「達也、舞子って呼んで……」
「舞子……なんか、恥ずかしい」
顔を見合わせ、互いの瞳の奥底まで覗くほど見つめ合った。それだけで昂奮が高まってくる。
知らずうちに舞子に女優を重ねていた。
(目が似ている…)と思った。大きさ、形状ではなく、表情、動きといったらいいのか。ときおり眩しくもないのにわずかに目を細める。それは癖なのだろうか。それが似ているのだった。その時の表情ははにかんでいるようでもあり、相手を見据えているようにも見え、愛くるしさと芯の強さが混然と染まって言い知れぬ魅惑の輝きを見せていた。
「舞子…」
「ああ…呼ばれると痺れてきちゃう……」
舞子は私の首に腕を絡めて腰を上下し始め、その刺激に私もしがみついた。
「ああ!感じる!」
動きは激しくなり、私は耐え切れず声を上げた。
「うう!舞子!」
「あうう!」
舞子が体を預けてきて後ろに倒れ込んだ。
ニオイ!ニオイ!
舞子の体がニオイに包まれた。一体となっている私もニオイの中にいた。快感に苦しさが伴い、耐えているとふたたび快感に繋がっていった。