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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-3

「部下を付けると自分の取り分が減ってしまうかもしれないからな。
それでもアキレスはちょっと慎重だからちょっと部下を付けると思うんだ」
「ううん」
もはや楓は話を聞かずに否定している。
いわゆる聞き流しだ。
「だから三人だ!
あ、ちなみにこれはアキレスも含めて三人だからな」
「はいはい、満足した?」
「おう!!」
楓はそれ以上追求はしなかった。
何故か楓の方にも戦闘欲が顔を出してきたからだ。
目の前で戯れ言を吐いていた男に対して、だ。
だが、敢えてその欲求を抑える。
ここで怪我でもさせてしまったらアキレスを一人で説得しなければならなくなるからだ。
「龍也、アンタはアキレスと戦いたいって思うの?」
楓の質問の後、沈黙が走った。
聞かれた事は常に即答している龍也にしては珍しい事であった。
「俺は…戒の特攻隊長だからな」
一見答えになっていないような答えだが、楓は納得した。
戒の命令は絶対だ。
失敗は許されない
だが、それ以上に拒否は許されない。
遂行しようとする意識が見られない時点でその者は『戒』から追放される。
それが戒の根源たるルールだ。
その責任は立場が上の者にはプレッシャーにもなる。
上の者には下の者以上に失敗や拒否は許されないのだ。
龍也は過去に『下』であることがどれだけつらいか知っている。
だから自分は毎日死ぬような想いをしてここまでのしあがったのだ。
後悔などしていない。
それでも、
「仲の良い奴と闘うって…つらいよなぁ」
龍也はひとりごちた。
その声を楓は聞いている。
それでも敢えて無言で返した。
やるせない龍也とそれを心配する楓を乗せ、バイクは淡々と疾駆する。



やがて、龍也と楓の目の前から対向するバイクが現れた。
三台。
しかもその内の一つには見覚えがあった。
楓はその見覚えのあるバイクを指さし、
「龍也、あれって…」
「ああ、アキレスがいつも乗ってるバイクだ」
龍也や楓に限らず、戒の者ならみんな知っている。
稽古を付けに来る時、アキレスはバイクで来る。
そのアキレスがいつも使っているバイクが目の前にある。
乗っている人物はヘルメットをしているので顔はよく分からないが、二人は本人だと確信していた。
龍也はバイクにブレーキをかける。
そして対向する三台のバイクもブレーキをかける。
ちなみに今、高速道路には車は走っていない。
戒の人間が避難勧告でも出したのだろう。
戒は一般市民を守るために作られた機関だ。
それくらいの事は当然仕事の範囲内だ。
「アキレス!」
龍也が叫ぶ。
それに反応したかのように三人は降りた。
龍也と楓も降りる。
そしてその場にいた五人は同じタイミングでヘルメットを取る。
「久しぶりだな、御剣、三神」
ヘルメットを取ったアキレスは龍也と楓に対して長く逢っていなかった友達であるかのように呼びかける。
が、その顔は決して笑ってはいなかった。
アキレスは元々感情表現が不器用な男だった。
だが、訓練の時には厳しく、それ以外の時には優しかった。


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