冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-15
そこから二人の食い違いが生じているのだ。
闘夜はどちらに味方すべきか迷っていた。
癒姫か、アキレスか?
『神無月 闘夜。
お前はどちらを選ぶのだ?』
まるで闘夜の心の中を見透かすように質問が飛んできた。
「俺は…」
自分を貫こうとしているアキレスか?
他人を守ろうとしている癒姫か?
闘夜は答えを決めた。
「俺は癒姫の方につく!」
闘夜は突然癒姫の前に立った。
「アキレス!お前に…いや、お前の為にここは進ませるわけにはいかない!」
第六話 「月光色の眼」
「俺の為に…だと?」
「ああ、お前には人を殺させるわけにはいかないから俺はお前と戦う。
そしてついでに癒姫も守る!」
…私はついでですか…?
癒姫がしらけた顔で闘夜を見てツッコみを入れる。
闘夜とアキレスは気付くはずもない。
「俺は殺すことには慣れている。
昔も今も。」
「それでも人を殺そうとするお前を認める訳にはいかない!
お前を止めたら誰も死なない!
それでみんなが救われるんだ!
文句があるなら力で語れ!!」
木剣を携え闘夜は走る。
「言われなくともそうするさ!」
アキレスも走り、二人は剣を振る。
闘夜の木剣をアキレスの小太刀二本が受け止める。
「むん!」
アキレスが小太刀をそのまま押して闘夜の体勢を崩した。
…殺った!
体勢を崩している闘夜の心臓目がけて突く。
が、闘夜はわずかに右に動いて小太刀を脇ではさんだ。
「何!?」
闘夜のムチャクチャな行動に呆気に取られるアキレス。
間近にある闘夜の顔を見ると、明らかに変化している所があった。
…目が光っている!?
「そんなんで俺が殺せるとでも思ってんのか!」
隙をつかれ、アキレスは鳩尾への蹴りをもらう。
「がっ!」
口から血がこぼれるが、闘夜はおかまいなしに攻めてきた。
小太刀を挟まれていることによって右腕は使えないところに今度は右脇腹へのミドルキックが炸裂した。
同時に闘夜は手を放し、木刀で左腹を薙いだ。
「がはっ!」
闘夜はその勢いに身を任せアキレスと距離を取るように離れる。
当のアキレスは倒れていた。
が、まだ終わったわけではない。
「俺は…負けるわけにはいかないんだ…!」
何も分からずに死んでいった家族。
四神への憎悪を抑えきれなかったが為に焼いた家。
そして自分自身の為に敵に回した戒の部下達。
その全てが今はない。
すべて偽物だったのだ。
すべてが四神によって作られた偽物。
そう思うことでアキレスは四神を憎まない。
そして憎悪の矛先は四神にそれをさせた死神に向く。
それが、アキレスの憎悪の拡大なのだと闘夜には分かっている。
「このクソ野郎が」
闘夜は吐き捨てるように言った。
「結局暴れたいだけのクセに言葉並べて正当化しようとしてんじゃねーよ」
今度の言葉で癒姫も闘夜の変化に気付いた。
…さっきまでの闘夜さんとは違う…。
そう思った時、癒姫は真っ先に闘夜の目を見た。
案の定、目の色が変わっていて、光っている。
…『月光の眼』!?
それこそ癒姫が闘夜を殺さなければならない契機。
…でも…
今、それをしなければならないのだろうか?
冥界全土を危険にすると言われた力は今、アキレスを止めようとしている。