冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-14
「私のショーもこれでお終いだ。
死んでくれ、私の大切な人形よ」
四神が手を挙げる前にアキレスは動いていた。
腰の小太刀の抜刀とも共にそれを投げる。
小太刀はアキレスの想いを乗せてまっすぐに進み四神の首を刺す。
「ア…キレ…」
かすれた声で四神はアキレスの名を呼ぶ。
「呼ぶな、汚らわしい」
冷酷に述べて首に刺さった小太刀を抜き、今度は首を切り落とした。
…何故、こんな事になったんだ?
「四神様!?」
「おのれアキレス!よくも四神様を…」
そんな事を述べている近衛兵を知らず知らずの間に殺していた。
アキレス自身にもあまり記憶はない。
ただ、アキレスが覚えているのは目の前にある無数の血だまり。
そして何も守れなかった自分。
そしてどうしてこんな事になったのかという疑問。
それだけだった…。
◎
凄惨な過去をを静謐に、淡々とアキレスは話した。
実際に話をしたのはこれで三人目だ。
最初の二人は自分がもっとも信頼している部下二人。
それを聞いていた闘夜は全身を震わせていた。
「俺は家族を奪われた。
四神にではない。
一人の死神の手によってだ!」
アキレスは怒りをむき出しにして闘夜に叫ぶ。
「貴様に俺の気持ちが分かるか!?
俺は人生を奴の手によって作られていたんだ!
分からんだろうな、俺の気持ちなど」
自分の気持ちを分かる者はいない方がいい。
気持ちが分かると言うことはその者も同じような事を経験したと言うことだから。
今のアキレスには客観的に判断して自分の方に同情してくれる者さえいればいい。
「もしも俺に同情してくれるなら…俺を放っておいてくれ」
睨みながらアキレスは言う。
それは脅迫と言うよりも主張。
自分に同情して欲しいという哀願の裏返しだ。
闘夜は同情はしなかった。
だが、自分も同じような事を経験している。
たった一日で家族がいなくなった。
父は姿を消し、母は自分の心に傷を残して消えた。
だからアキレスの気持ちは少しだが分かる。
「私はあなたを行かせません」
それは、倒れていたはずの少女の声。
「あなたに死神を…お爺様を殺させたりはしません!」
少女が倒れていた場所には少女が立っていた。
先ほど闘夜を守った少女。
同時にアキレスをも守った少女。
「癒姫!お前体の方は…」
癒姫は闘夜の方に微笑みを見せる。
「大丈夫です。
闘夜さんのおかげで全然元気になっちゃいました♪」
相変わらず微笑みを崩していないが、足腰の方は少し崩れかかっている。
対して回復などしていないのだろう。
「アキレスさんの話も全部聞かせてもらいました…。
確かにアキレスさんには同情します。
四神様はとても酷いことをしたのだと分かります。
それでも、死神を殺すと言う意見に私は絶対納得しません!」
闘夜は無関係の第三者として、何となく二人の意志が分かった。
アキレスは今回の事件を四神一人のせいだとは思っていない。
死神という役職が四神を傲慢な男に変貌させた。
だから死神を全員殺し、死神という役職を排除しようとしている。
一方、癒姫は四神が悪いのだと考えており、死神が悪いとは考えていないのだ。