人妻液垂れ(2)-3
ペニスは奈々枝の腟壁に扱かれつづけ、
「うっうっうっ」
体を沈める度に奈々枝は低い声を出す。
「奥さん、もう…」
「いいわよ、イッテ。あたしもイケるから」
「うう」
奈々枝に抱きついて俺も猛然と突き返した。
「イク!」
「イクわ!イク!」
ほぼ同時に口走っていた。
腟内のたしかな蠢きに包まれたペニスから磁力を帯びた快感の粒子が飛び散った。
「気持ちいいわ…」
「奥さん…」
奈々枝の熱い息が耳をくすぐった。
気がつけば四時間余りの熱烈なセックスであった。しばらく動きたくないほどの脱力感に被われて、煙草さえ吸う気になれない。
奈々枝もぐったりしているが、虚ろな眼差しはなおも俺に注がれている。
「磯貝さん。好きな人はいるの?」
「いえ…特に…」
奈々枝は間を置いてから、
「よかったら、また会ってくれるかしら?」
「それは、いいですけど…」
言葉を濁すと、
「主人のこと、気になる?」
「はあ…」
「大丈夫。うまくやるから。それに、当分まともに動けないわ」
俺は曖眛な笑いで応じながら復雑な想いに澱んでいた。薬が切れれば奈々枝の想いも消えてしまうのである。
(継続的に関係を保つ方法があったら…)
それが出来ないから薬を使ってるんだが……。
次の週も安田を見舞った。しかしタイミングが悪く、沙織にも奈々枝にも会えなかった。しかも検査の結果、手術をしないことになり、近々退院するという。
「まあ、こういうものは騙し騙し付き合っていくしかないよ。しばらくは自宅療養だから迷惑かけるけど、頼むな」
「よかったですね…」
安田に愛想笑いを送りながら俺はがっかりだった。
(なんてことだ…)
せっかくのチャンスがなくなった。話の様子だと来週末にはもういないようだ。
せめてあと一度でもいいから味わいたかった。
新たな案を考えなければならなかった。
半月ほどして何とか復帰した安田は以前の厭味な上司に戻った。ただ、見舞い
に行った効果だろう、罵倒するようなことはなくなり、何か言いかけると口を噤んだり、どこかしら気を遣う様子が感じられた。それでも皮肉や咄嗟の舌打ちが出たりするのは性格というしかない。
治りきってはいないので安田の動作はロボットみたいにぎこちない。皮かむりの上、それではさらに奈々枝のストレスは溜まっていることだろう。いつでも相手をしたいところだが、そう簡単にはいかない。女に飢えていたなら強引な手段に出たかもしれないが、とりあえず身近に江里がいた。
江里とは何度寝ただろう。途中で追加服用させる要領がわかったので最近は泊まることにしている。こっちが欲情した時に薬を使うのだから飽きることはない。だが度重なれば新鮮味は徐々に落ちてはいくのだが。……
気になるのは薬の効き方、時間のことである。効き始めが遅くなった気がするのである。先日も退社四十分前に飲ませてほっとしていると効き目が表われないまま江里は帰ってしまった。分量は規定通りである。同様のことが何度か続いた。
体に抗体でも出来て効力が落ちたのだろうか。次からは量を増やしてみようか。……
ある日願ってもない設定が待っていた。江里が黒酢を飲み始めたのである。
「美容にもいいのよ」
パックを冷蔵庫に入れて日に何度か飲むようになった。どうせ長続きはしないだろうが、これ以上望めない媒体をつくってくれた。飲みようによっては常に俺に惚れ続ける可能性もある。俺は込み上げてくる笑いをこらえながら江里の変化を待っていた。
いつ飲んだのか、気がつくと明らかな兆しが表われていた。色っぽい視線を投げかけ、周りを気にもせず、露骨に口をすぼめてキスの真似などしてみせた。
(さて、今夜はどうやって愉しもうか…)
江里に笑顔を返しながらあれこれと卑猥な場面を描いて気を高めた。
「磯貝くん」
振り向くと安田が顔をしかめて立っていた。
「冷蔵庫にある黒酢って、君のか?」
「いえ、たしか相良さんのですけど」
いやな予感がした。
「そうか。一杯頂いちゃったよ。しかし美味いもんじゃないね、あれは」
俺は絶句した。
「相良には黙っててくれよ。ちょっと味見しただけだから。女はうるさいからな」
腰を屈めてよたよたと席に戻っていく安田の後姿を追いながら、俺は暗い思いに沈んでいった。
(まずいな…)
男が飲んだ。いったいどうなるんだ。想定外の事態である。
しばらくして江里が腰をふりふりやってきた。
「ねえ、今夜、空いてる?」
すでに頬がほんのり上気した感じだ。
「空いてるよ。飲みに行く?」
「うん」
「どこがいい?」
「任せるわ」
どこも何もない。行くところは決まっている。今夜は酒抜きでホテル直行といくか。江里の表情もそれを望んでいる淫らさに満ちている。
緊張が走ったのは江里の後ろに安田が現れたからだ。
「磯貝くん。今夜ちょっと付き合ってくれないか?」
安田の目がいつもと違う。なにやら不気味に輝いている。
江里がきつい目で安田を睨みつけた。
「彼、あたしと約束があるんです」
「何を言ってるんだ。関係ない」
「もう約束したんです。ね、磯貝さん」
「うるさいな。そんなのどうでもいい。ばか!」
突然声を荒らげた安田の唇は震えていた。尋常ではない。俺は思わず立ち上がった。
「そんな約束、明日だっていいだろう。今夜は俺と付き合ってもらう。大事な話があるんだ」
「ばかってなんですか。仕事が終わったらプライベートです。横暴なこと言わないでください」
「何が横暴だ。大事な話なんだから仕方がないだろう」
「こっちだって大事なことです」
他の社員が注目するほど大きな声である。江里は一歩も引かない。
「彼はあたしのものです」
「何を言う。磯貝は俺のものだ」
事務所内は静まり返った。俺は立ち尽したまま何も言えなかった。