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憲銀の恋
【純愛 恋愛小説】

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新たな生命(いのち)-2

 日本語検定の試験は八月、もうそれほど時間は残っていない。お互いの仕事が終わると参考書を挟み、深夜まで勉強する、そんな毎日が続いた。憲銀は授業が終わるのを待ってアルバイト先へ駆けつける。私は仕事が終わると仕事場から憲銀のアルバイト先に憲銀を迎えに行く。一緒に帰宅すると食事もそこそこに検定の勉強。そんな毎日が続く最中、憲銀が体の変調を訴えた。

 妊娠であった

 吐き気を訴え何度もトイレに駆け込む。憲銀のつわりはひどいものであった。中国にいる娘を妊娠したときも満足に仕事が出来ず、つわりが始まって娘が生まれるまでほとんど仕事は休んだという。

 変調を訴えた翌日、憲銀は市民病院で診察を受けた。

”妊娠二ヶ月”と告げられた

 愛する二人に子供が出来れば喜べばいいといえるほど私達二人の環境は平坦ではない。

 つわりを訴えた日から憲銀が口に出来るものはオレンジ、大根とにんじんの酢の物の二つだけとなってしまった。季節は既に夏の入り口、記録的な猛暑の中、憲銀はみるみる痩せていった。検定試験まで既に一ヶ月を切っていた。

 受験へのストレス、極度のつわり、そして猛暑。 憲銀は全てに敏感になっていた。わずかな音、かすかな匂い、そして私の存在までが彼女を苦しめているようであった。勉強も手につかず布団に横たわる。そんな時、私は自分の部屋に帰った。

「トーミン、何故私を一人にするか」

 ほんの少し前、一人になりたいと騒いだ憲銀が今度は直ぐ帰って来いと電話してくる。激しいつわりが憲銀を極端なわがままな生き物に変えてしまう。私は再び憲銀の部屋に戻るしかなかった。



 試験の結果が届いた。書かれた文字は、

 ”不合格”

 年に一度の検定試験である。今年憲銀が理美容の専門学校へ入学する道は閉ざされてしまった。激しいつわりに耐えがんばった憲銀が不憫であった。

 不合格の報は私達に新たな決断を同時に迫ってきた。憲銀に宿った新しい命は既に四ヶ月、時間は無かった。

「トーミン、あなた決めるね」

 憲銀は全てを私にゆだねたのである。

 私は本当に憲銀のことを考えて結論を出したのであろうか。今でもよく解らない。

「憲銀、子供を生め。結婚して二人で育てていこう」

 憲銀はジッと私の言葉を聞いていた。この日憲銀が自分の意思を示す事はなかった。


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