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憲銀の恋
【純愛 恋愛小説】

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愛しい人・・・憲銀-1

わたしトーミンの子供うめなかた。殺したね

まだおこてるか?

病院で子供ころした夜、トーミン布団の中ないていた

わたしつらかたね

子供生みたかたけどゲーゲーがまんできなかた

日本誰もいない

一人で子供産むのこわかた

わたしぜんぜんだめね

子供殺したあと桂林にかえたけど

トーミン嫌いになたのちがう

お父さん、お母さん、それに娘あいたかた

また日本にかえろうとおもたけど

娘さみしがる

娘、小学生になた。ひとりかわいそう

わたし、日本でさみしかた。

トーミンそばにいてくれたときわたしさみしくなかた。

娘、それといっしょ

わたしいないとむすめさみしい、かわいそうね。

トーミンおこてる。

ずっと手紙かけなかたけどトーミンもさみしい

だから手紙書いたね

わたし日本行けないけどトーミン中国くるか

わたし桂林でまてる。

すぐくるか。



憲銀からの手紙は続く。

 憲銀が根をあげたのではない。私が参ってしまったのだ。

 憲銀に子供をおろせというのはあまりにむごい気がした。だから私は憲銀に生めといったのだが、憲銀があの時果たしてそれを望んでいたのか・・・・今考えればはなはだ疑問である。

 娘を産んだ後、つわりの苦しさ、帝王切開後の回復時の痛みに、二度と子供は生みたくない、子供が出来るならセックスなど二度としたくない。一緒に暮らし始めた頃憲銀は繰り返し言っていた。産むと決めた後も出産に対する不安を盛んに訴えていた。

「トーミンのおかさん、だめか?」

 憲銀は私の母に傍にいてくれることを望んだ。しかしそれは無理な話である。遠く九州にいる母は高齢である上に認知症を患っていた。母自体が介護の必要があった。

 毎日苦しみ、不安を訴える憲銀を目にして私が参ってしまったのだ。

 あの時私が”産め”といわなければ、そしておろす事をもっと早く決心すれば憲銀は無駄に苦しまずに済んだはずである。

 子供をおろしたあの日、産婦人科の待合室で私は後悔していた。

 処置が済んだ後の病室で憲銀は声を押し殺して泣いていた。



 病室のベットを涙で濡らす憲銀を見て、憲銀を苦しめていたのが自分である事に気がついた。

 憲銀は私と出会わなければこんなにも苦しむ事も無かったのでは・・・

 同時に自分が憲銀を救ったのではない事にも気がついた。救われていたのは自分である事を。

 半日ほど病院のベッドで過ごした憲銀をアパートに連れ帰る。憲銀はひたすら眠りについていた。

 憲銀が寝ている部屋の隣の部屋で私は声を押し殺して泣いた。憲銀はそれを聞いていたのだ。

 憲銀は私が望んだ二人の子供を自分が殺したから私が泣いていると思い込んでいたのだ。

 白い便箋の文字を追いながら私は憲銀に伝えたかった。



”憲銀、違う。あの時私は君に謝っていた。君をずっと苦しめ続けたのは私の方なんだ”



 届かぬと判っていても便箋の向こうの憲銀に謝りたかった。



     私の恋は思い上がりの恋

   
            憲銀の恋は純の愛



     桂林の冬は寒い。


            風邪を引かないように・・・





                         愛しい人、憲銀へ  トーミン


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