裏切り-1
〜第6話〜
スカートを捲り下半身を露出させたまま、美香はただ黙るしかなかった。
浩二と別れたくない。
だが・・斉藤との関係も捨てたくない。
こんなに敏感な身体のはずなのに、それでも浩二には美香を満足させられる程のテクも肉棒もなかった。
今の美香には斉藤が必要だった。
愛情はなくとも・・それがわがままだと言われても。
斉藤なら、自分の全てを曝け出せる。否、斉藤だけが自分の全てを理解し、満足させてくれる。
斉藤と別れて、浩二を知り・・再び斉藤を知り・・
初めて斉藤の存在の大きさを身に染みて感じた。
だが、何て答えればいいのか・・・最善の答えを短時間で導く事はできなかった。
どれほど時間が経ったろう・・・
返事もなく黙ったままの美香にしびれを切らした斉藤は、「もう帰りな。下着くらい持って来てるんだろ?俺とお前はもう会うこともない。旦那にも近づかねぇから安心しな」
遂に見捨てられてしまった。
(うそ・・冗談・・よね?このまま帰ったら、もう二度と会えない。
何か言わなきゃ・・でも何を言えば許してくれるの?)
背中を向けて隣の部屋に向かう斉藤。
(そんなにあっさり捨てるなら・・私の前になんで現れたのよ・・
二度と現れなかったら・・・こんな気持ちにならなかったのに・・)
このまま斉藤と別れるなんて嫌・・・それだけは何とか止めたかった。
ただその気持ちだけで斉藤を呼びとめた。
「ま、待って・・」
自分の考えがまとまらないまま、何とか声だけを発した。
美香の必死の気持ちが声となって届いたのか斉藤の足は止まり、振り返った。
「あの・・浩二と別れて、雅彦さまとやり直す事はできません。
私のわがまま。という事も十分理解してます。
でも・・今の私には雅彦さまが必要なんです。
それは嘘ではありません」
嘘偽りない気持ちを必死に訴える美香。それを黙って聞く斉藤。
斉藤はどこまで計算をしていたのか・・こうなる事も計算の一つに過ぎなかったのか。
「くっくっくっくっ・・はははっ・・・ずいぶん正直に話すじゃねぇか。
このまま関係を続けて、もしバレたら・・どうするんだ?
俺は慰謝料だけ請求されて・・・
気がつけば、前みたいに逃げるように引っ越して携帯も変える。なんて事もあるだろうしな」
前に別れた時はしつこい斉藤から逃れるため知らない土地に引っ越し携帯の番号も替えた。
次もそうなるのでは?と、危惧していた。
「そんな事しません・・信用できないなら・・リスクを・・・そう。私もリスクを背負います。
もしバレたら・・その時は・・私は浩二と別れます」
美香のまっすぐな目を見ればそれが一時のごまかしではなく本心である事は明白だった。
が、斉藤にとってはどうでもよかった。
探偵になるため法律も勉強したとえバレても慰謝料を請求される事はない。
正確に言えば、支払う義務がない。
それと美香がどこへ消えてもすぐに見つけ出せる自信があった。
これはあくまで美香を陥れる為の話。
美香が浩二を裏切ったまま斉藤との関係を続ける事に対してどれほど本気なのか、今の気持ちを確認することだった。
美香が面白いように自分の術中にハマっていく。
「私もリスクを背負います」という言葉まで出るとは少々意外だったが、
大筋で斉藤の描いたシナリオ通りに事が運んでいた。
「リスク・・ねぇ。旦那にバレるまで、俺との関係を続けようって思ってるのか?」
「はい・・わがままなのは承知です。でも・・・こんなに興奮させてくれるのは雅彦さまだけです」
もう帰れと言われない事に美香はひとまず安心した。
「ふっ・・そこまで言うなら・・その気持ちが本物かどうか試させてもらおうか」
「は、はい・・」
斉藤の目をしっかり見つめて美香は即答した。
これで斉藤に捨てられずに済む。今はその事がなにより嬉しかった。
でも、一体どうやって?リスクを背負うと言ったものの、それをどうやって斉藤は
確かめようというのか。
「よし、いいだろう。携帯を出しな。旦那にバレたくない気持ちが本物か。
俺に対する気持ちが本物か。その両方を試してやる」
斉藤の意図がわからなかった。
携帯で何をするのか。どうやってその両方を同時に確かめるのか?
考え込んだところで答えはでない。
ずっと捲ったままだった手を一旦スカートから離し、背を向けてバッグの中にしまっていた携帯を取り出し、握りしめると斉藤の前に立ちなおした。
「もう一度だけ確認する。旦那と別れる気はないんだな?
それから・・俺とも」
気持ちが固まっていた美香は力強く頷く。
「はい・・・」
「ひとつだけ条件がある。俺がお前を求めた時はできるだけそれに応じる。
・・・できるか?無茶は言わねぇよ」
ただ厳しく強引なだけではない。この、たまに見せる気遣いと優しさが斉藤の魅力なのだろう。
今さら何の異存もない美香は首を縦に振る。
「はい・・雅彦さま・・・」