heel-10
だが、その想いの行方は――。
制服のズボンのポケットに手を突っ込んで、硬い背もたれにドカッとその身を預けた俺は、前方に目を向けた。
視線の先には、古びた教卓。
俺の大好きだった女は、あそこでまばゆいばかりの笑顔を見せ、慣れない教鞭をふるっていた。
もし、俺が欲望に囚われずに桝谷のようにまっすぐに想いを伝えていたら、あの笑顔をこちらに向けてくれていただろうか。
雅を凌辱していた時の自分は間違いなくヒールだった。
辱しめて、雅が泣きながら快楽の世界に堕ちていくのを見るのがたまらなかった。
はしたないカッコをさせられて、されるがままに犯される雅がたまらなく好きだった。
こんな淫らな形でいつまでも愛してやりたいと思ってた。
でも、俺の愛し方は間違っていたらしい。
縄を解いて彼女を抱き締め、跡がくっきりと濃いピンク色になってしまった手首を優しく擦りながら想いを告げた瞬間、雅は眉間にシワを寄せ、下唇を噛みながら急いで服を着て、逃げるように美術室を出ていったのだ。
ストッキングも履かない、ブラウスのボタンもろくに締めてない、まるで悪者から命からがら逃げ出すようなカッコで、雅は何も言わずに俺の前から去っていった。
それが、俺が見た彼女の最後の姿だ。
俺は、嬉しそうに話をしている桝谷の顔をボンヤリ眺めながら、ポケットの中のスマホをそっと握り締める。
硬い感触のそれに触れていれば目に浮かぶ、囚われのヒロインの姿。
正義の味方なんて現れず、悪者に蹂躙される姿がこの中に収まっている。
俺が小さい頃から胸を熱くしていた、女が悪者に捕まって玩具にされるシーンの続きはハッピーエンドにはならなかった。
「博次、何か浮かねえ顔してんな」
桝谷が少し心配そうにこちらを見やる。
「こっちは振られちまったからな。お前の能天気な面がムカつくだけだよ」
何とか笑顔を作って桝谷の頭をバシッと叩いてやると、奴は少しバツが悪そうに頬を人差し指でポリポリ掻いていた。
俺の告白の結果を知っていれば、桝谷は自分のデート話を振ってこなかっただろう。
「で、でもさ。雅ちゃんの連絡先なら、クラスの女達が知ってるはずだぞ。一度振られたくらいで諦めんなって」
「バーカ、俺はお前みたいにそんなに打たれ強くねえんだよ」
そう言って、俺は桝谷の腹の辺りに軽いパンチを入れた。
それに、彼女の連絡先ならとうに知っている。
雅を凌辱したあの日、浮かない足取りで家に帰った俺は、兄貴から雅の携帯番号が書かれたメモをもらったのだ。