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縄灯
【SM 官能小説】

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縄灯(前編)-3

一ヶ月前のあのとき、私がなぜあの場所にたどり着いたのかはわからなかった。

高い石塀で囲まれ、陰鬱なほど生い茂った樹木に埋もれたあの懐かしい屋敷は、森閑とした闇
の中でぞっとするほど暗鬱で不吉な表情を見せていた。私の記憶の中から焼き消されたはずの
あの屋敷…でも屋敷はそこに確かに存在していたのだ…。

私は屋敷の古びた門を抜けると、まるで屋敷の中から吹いてくる生あたたかい風に誘い込まれ
るように中に入った。

そこで私を待っていたのは、二十数年ぶりに見た老いすぎたキジマだった…。

微かな寂光に充たされた座敷の伽藍のような高い天井は、白骨のような剥き出しの木梁をもち、
濃密で幽寂な艶を湛えていた。そして腰に朱色の腰巻きを纏った半裸のキジマは、骨の浮き上
がった褪せた胸肌を晒し、黒々とした縄束を群がる細い蛇のように手に絡ませ、部屋の真ん中
に亡霊のようにゆらりと佇んでいた。

キジマとのふたりだけのあの遠い時間が、暗闇の中に微かに漂う灯りでぼんやりと光っている。

その光が色褪せた遠い幻影と交錯しながら、私の瞼の中に彼の歪んだ顔を滲ませる。そのとき
混沌とした自分の心と肉体が、キジマの澱んだ瞳に引きずり込まれそうになるのを私はなぜか
拒んではいなかったような気がした。

縄を手にした彼の瞳の中に、私は自分の鬼を一瞬垣間見たような気がした。子宮の奥底までえ
ぐられたいと思うような彼の黄土色の長い指が、私を縛る縄をほぐしていた。キジマにほぐさ
れる縄は、すでに蛇の鱗のような光沢を放ち息を吹き返している。

私は、その縄に噎せ返るような欲情の幻想を抱き始めていた。彼の指に操られる縄で、肉体を
噛み裂かれるほど強く縛られたいと願う、眩暈のするような肉欲の疼きを感じたのだ。


私は、彼に操られるように衣服と下着を脱ぎ、肌のすべてを彼の前に晒した。

彼は窪んだ眼窩の中からどろりとした光を放ち、私の肉体に憂いを注ぎ込む。その憂いは深い
沼のような私の性器の奥底に澱む汁を淫猥に捏ね続ける。死に絶えた欲情が密かに息吹始め、
子宮の奥から懐かしい追憶が毒々しい光彩を放ち、喘ぐように洩れてくるようだった。


キジマは縄の束をほぐしながら、私の両手首を背中で高手にひねり、縄を絡ませる…。

重ねられた手首が強く縛られるだけで、私は生あたたかい甘美な疼きをすでに感じていた。
胸元のすそ野から微かな弛みをもった乳房の上下に、しゅるしゅると黒々とした麻縄が幾重に
も這わせられる。地肌に擦りつけられる縄は、私のなかに潜む蜜液の匂いを嗅ぎまわり、肌を
喰い緊め、体液を搾り取りながら、私の性の奥底をむらむらと炙りたてようとしていた。縄で
撫でられた欲情の魂が、子宮の中から遠い記憶を偲ぶように這い上がり涎を垂らしている。



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