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縄灯
【SM 官能小説】

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縄灯(前編)-1

プロローグ…


「…人の目に私の演技と映るものが、私にとっては本質に還ろうという要求の表われであり、
人の目に自然な私と映るものこそ私の演技である…」(ある著名な作家Mの言葉より)



私の記憶の中にはなかった…それが現実だったのか…幻覚だったのか…。

二十数年前の高校の卒業式の夜…

明日は住みなれたこの家を私が離れるというあの夜、母は私をひとり残していつものように
キジマという男のいるあの屋敷に出かけていった。その夜、私は眠れなかった…。からだの中
から濛々とたちこめてくる息苦しさに布団の中で悶え、のたうちまわっていたのだ。

はっきり憶えていなかった…あのときのことを…。

あの夜、眠れなかった私は、まるで夢遊病者のように母のあとを追い、キジマのあの屋敷に
向かったのだ。屋敷の勝手口で佇み、じっと耳をすましていると、部屋の中から聞こえてくる
縄が軋む音と母の悶え声と嬌声…そして撥ねる鞭の音…。

そのとき微かに湿った手に握りしめていたものは、母が使っていたライターだった。私は屋敷
の裏口から密かに中に入る。そして、勝手口近くの台所に積まれた古新聞にライターで火をつ
けたような気がする。

その瞬間、小さな火がゆらぎ、しだいに赤々とした火勢が増すと、一気に猛々しい炎が躍り上
がった。いや…それは燃えさかる炎ではなく、大きな幻影のような鬼が高らかに笑っている姿
だったのだ。

私はとっさに屋敷を出ると、その場から逃れるように走った。あの鬼から後ろ髪を引かれるよ
うな烈しい恐怖を背中に感じながらも、どれくらい走ったのかわからなかった。
気がついたとき遠くでサイレンの音が聞こえた。うしろを振り向くと、屋敷がある方向の夜空
が赤々と照らし出されていた…。


―――


…あたしの名前って…キジマっていう老いぼれた年寄りですよ…女を縛って責めることだけが
楽しみのつまらない老人ってところです…なぜ縛るのかって…鬼ですよ…女の中に潜む鬼が
見たくて、あたしは女を縛り、責めあげる…責められる快楽に酔うことができる女は、自分の
中の鬼を見ることができる…

…そして、その鬼を見ようとする女ほど美しいものはないってことですよ…。

…あんたは、縛られた女のあそこの淫唇からまるで蜜のように滴り、腿のあいだを流れる鬼の
涎を見たことがありますか…あたしはその甘い極上の涎を啜ったことがある…だが、そんな女
はどこにでもいるものじゃない…

でも「谷 舞子」という、四十歳を過ぎた女は、まさに私が求めていた女でしたね…思わず生
唾を呑んでしまうほど縛り甲斐のある肉惑的なからだをしていましたよ…

あたしはね、彼女の母親もよく知っています…母親のからだもよかったが、「谷 舞子」の
からだは母親以上に縄に馴染む肌艶をしていたものですよ…

…淡い飴色の蝋燭の灯りの中で艶々と耀いている彼女の雪白の裸身を見たとき、その妖艶さに
あたしの胸の奥が削がれるくらい動揺しましたね…もっとも私がその女を初めて見たのは彼女
が十七歳のときでしたが、今の彼女はずいぶん色っぽい女になったものだ…蒼味を帯びた熟れ
た肉体は穏やかな表情を見せながらも、あたしを呑み込んでしまいそうな邪気が漂っていまし
たね…


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