『詠子の恋』-30
いわゆる“破瓜の痛み”は、しばらくの間、詠子を歩くことさえ困難にさせた。
「男の子って、ずるい……」
「そんなこと、言われても」
一方、好きな相手の中で、出すものを出しきって、幸せいっぱいという表情で緩んでいる吉川を見ていると、繋がっていたときの幸福感を残しつつも、恨み言が口をつくのは、仕方のないことであった。
しかし、二度目、三度目と、性の交わりを重ねるにつれて、痛みはほどなく無くなっていき、それに変わって、とてつもない気持ちよさを、詠子は味わうことが出来るようになった。それは、男子では到底たどり着けない領域の快感であり、女の身体の不思議さを、詠子は改めて体感することになった。
「女の子って、すてき……」
「そんなにも、すごいの?」
射精の気持ちよさは、大抵が一定だから、何段階ものエクスタシーを身体の中で弾けさせて、失神するほどに蕩けてしまった詠子の姿に、羨ましそうな表情を向ける吉川であった。
初体験を終え、繋がった状態で絶頂も体感した詠子は、そうなると、“読み年増”の本領を発揮し始めた。
「よ、よみ、いつのまに、こんなっ……!」
“素浪人・新五郎”の劇中に出てくる指使いで、あっという間に吉川を昇天させ…、
「うあっ、よ、よみ、すごい、うっ、あ、ああっ……!」
吉川を身体の下に屈服させて、むっちりとした太股で極めて、身動きを全くさせず、妖艶な腰使いでもって、彼に何度も射精をさせた。
「こうクン、今わたし、スカートの下、何も穿いてないの」
「ノーパン!?」
「このパンツ、脱いだばっかりなんだけど、欲しくない?」
「ほ、欲しい!」
相当にハードな練習の後だったからか、詠子の部屋に来たのはいいが、その気がなさそうな雰囲気の吉川の耳元にそう囁いて、たちまち性欲を滾らせ、服を着たままで事に及んだこともあった。
そして、極めつけは、おそらくこの“出来事”であろう。
吉川が所属している軟式野球部が、前期の日程を全て終えて“3位”という成績を収めた後、打身も辞さない相当にハードな練習を重ねるようになった彼のことを、詠子は、グラウンド外で見守ることが多くなった。
「キミの身体、いつも湿布だらけだね」
体中に湿布を貼り付けている吉川の姿に、心配そうな視線を向けつつ、彼の目の前で衣服を脱ぐという“ヌードショウ”を見せつけて、欲望を煽って“秘め事”を始めたときの話が、その“出来事”の発端であった。
手による愛撫で、吉川の出した“精子”を顔に浴びた詠子は、お返しに今度は彼の顔をどろどろにすべく、“四十八手”でいうところの“岩清水”という体勢になり、自分の股間に彼を顔を埋めた。
股間の“黒絨毯”に彼のあらぶる息を浴びながら、淫裂に感じる舌使いで、吉川の顔を“愛蜜”に塗れさせ、昂ぶっていた詠子だったが、“クリ×リス(陰核)”を執拗に嬲られて、その部位を責められると決まって湧き上る体の現象を、引き起こされてしまった。
「キミの、せいなんだからね」
“岩清水”の体勢で、吉川の顔を股間に埋めたまま、“クリ×リス(陰核)”をいじられたことで催した“尿意”を、どうにも我慢することが出来ず、そのまま“放尿”してしまったのである。彼の顔に、股間から迸る金色の水流を浴びせながら、ベッドに世界地図を広げた時の羞恥は、筆舌に尽くしがたい。
しかし、詠子は同時に、全く違う興奮を感じていた。愛する人の顔に向けて、堪えていた“尿意”を漏らしてしまったときの、あまりにも背徳的な解放の衝動に、何か“別の目”を見開かされた気分にもなっていた。
とは言え、本当に恋人の目の前で“放尿”する姿を見せてしまったのは間違いなく、その直接のきっかけを作った吉川に、
「どうしてくれるのかな?」
と、意地悪を言ってみた。
詠子としては、高めのディナーにでも誘ってくれれば、それで十分だったのだが、
「よみを、僕のお嫁さんにします」
と、吉川は真面目な顔で言ってきたので、呆気にとられて、面食らって、それでも、とても嬉しくて…。
なぜか、笑ってしまったのだった。