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『詠子の恋』
【スポーツ 官能小説】

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『詠子の恋』-29

「ね……うごか、ないの……?」
「よみ、でも……」
 おそらく、相当な痛みの名残が、詠子を苦しめているはず。そう考えると、中に入ったはいいが、それ以上の律動はどうしても憚られてしまう。
「わたしの、なかで……こうクンに、きもちよく、なってほしいの……」
「!」
 なんという、健気な想いであろうか。吉川は胸が詰まって、思わず涙を零してしまった。
「こうクン、ないてる……」
 それを、詠子の指が拭い取っていた。
「よみ……好きだ、よみ……」

 ぐ……

「ん、は……」

 ずぬ……

「んぐっ!」
 明らかに、快楽とは違う喘ぎを、詠子は発する。しかし、吉川はそれをわかっていても、腰の前後を止めるつもりは、毛頭なかった。
「よみ……よみ……!」
「あ、うっ、んっ、く、う、ううっ……!」
 腰を引き、それを押し戻す。非常に単調なリズムのそれは、詠子の傷ついた部分を、広げないように慮っている証である。
「こうクン、きもちいい……? わたしの、なか、きもちいい……?」
 吉川の腰が前後する度に起こる痛みと、胎内を何かが行き来する感触に、脳内を朦朧とさせる詠子。
「ああ……よみの中、最高だ……きもちいい……きもちいいよ、よみっ……!」
 それでもなお、吉川に気持ちよくなって欲しいと願う彼女の姿は、肉体的なものではなく、精神的な快楽を彼の中に満ち溢れさせて、その昂ぶりを押し上げていった。
「よみ……でそうだ……もう、でそうだよ……!」
「いいよ……だして……だして、こうクン……!」
 自分が今どうなっているのか、詠子には全く分からない。だが、吉川が男としての性欲の終着点にたどり着こうとしているのなら、遠慮なくそれを果たして欲しいと願う気持ちは、確かなものとして存在していた。
「あ、ああ……でる……もう、でる……う、あっ……!」
 吉川の動きが、一瞬止まった。
「う……あ……あぁ……」
 奥の深い場所に、熱いものが入り込んだ瞬間、吉川の表情が、何かを堪えるような、強い引き締まりを見せた。しかし間もなく、それは弛緩して、気持ち良さそうな表情に摩り替わっていった。
(こうクン……精子、だしてるんだ……)
 ゴムに遮られているから、その感触はよくわからない。
(いっぱい、だしてるんだ……わたしのなかで、精子を、いっぱい……)
 ただ、自分の胎内で、彼の魂魄を解脱にまで導いたという事実は、詠子に、今の自分がとても幸せな存在であるという感覚を、胎内全体を包み込んでいる暖かな感触と共に、生み出させてくれた…。


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