☆☆☆☆-2
翌日、湊はテスト勉強をしに学校の図書館に向かった。
今期のテストは3教科だけなので余裕だ。
図書館に入ると、外とは打って変わって心地よい空気に図書館の匂いと共に包まれた。
下の学年は授業中であるため、人はまばらだ。
その中に見慣れた顔を見つけた。
「うす」
「おー湊。テスト勉強?」
「まーね」
湊は雅紀の向かいに腰を下ろすと、リュックを隣の椅子に置いて教科書とプリントを取り出した。
取り出したはいいものの、なんだかやる気が出ない。
雅紀は真剣に勉強している。
「なぁ、マー」
「ん?なに?」
「佐山って覚えてる?」
雅紀は顔を上げずにフッと笑った。
「湊の事めちゃくちゃ好きだった奴だろ?」
「あいつのブログ、覚えてる?」
「そんなのもあったな。今もやってんのかね?」
やってるもなにも…。
1人で炎上してるっつーの。
「マーに相談したいことあんだけどさ」
「なんだよ、珍しいじゃん」
雅紀はやっと顔を上げて「なに?」と言った。
「メシでも食いながら話そ」
湊が提案すると、雅紀は伸びをして立ち上がった。
2人で食堂に向かう。
「佐山に猛烈アタックでもされてんの?」
「いや、会ってねーし」
「あいつの話したからそーかと思ったけど違うのか」
「違うってか…んー……。とりあえず、ブログ見て」
食堂でカツ定食を頼み、席に腰を下ろす。
湊は食べながら携帯をいじり、雅紀にブログを見せた。
「パスワード変わってないんだ」
「おかげさまで」
「ははっ」
雅紀はカツを食べる手を止めてブログに読みふけった。
10分程した頃「こりゃやべーな」と笑った。
「だろ?」
「人じゃねーよ、こいつ。つーか私の彼って湊のこと?」
「認めたくねーけど、そーなんだろーな」
「で、あいつってゆーのは風間のことか?」
「だと思う」
「はぁー…。今度は風間か…」
雅紀の言葉に、心臓がドクンと疼く。
「すごかったもんな、昔。よってたかってイジメやってさ…あいつの友達もどーかしてたけど。結局湊の彼女学校来なくなったりしたよな」
自分と付き合っているという理由だけで、その時の彼女は優菜にいじめられていた。
靴を隠されたり、教科書を捨てられたり…他にも色々あった。
やめろと言いに行けば、優菜は逆上し、行動がエスカレートするばかり。
別れなければ、彼女を救うことができなかった。
また、同じことが繰り返されると思うと、どうしていいのかわからない。
別れを選択するのは嫌だ。
陽向を守るには、どうしたらいいんだ…。
「多分…もう何かされてるかもしんないな…。風間、今実習中だよな?しかもあいつと2人で」
「そーだけど」
「この間は大丈夫そーだった?」
「うん、めちゃくちゃ元気そーだったけど。あいつ、隠すの下手くそだからさ、何かあったらすぐ顔に出るから」
「そっか…。でも、ブログ見ると今週からヤバそーな気がする。殺人予告的な事ばっか書いてるだろ?」
雅紀は「ひでーな、こりゃ」と呟いてブログを読み進めていった。
「実習の行きは別々っぽいし、実習中はさすがに何もできねーだろ。帰りは途中まで一緒だから、そこが一番危ないな」
「どーすりゃいーんだよ」
「んー…」
雅紀は金曜日の記事を見て顔を曇らせた。
「このネズミ、風間ん家に届いてなかったか確認して」
「は?聞けねーよそんなこと」
「いやー、そこは湊さんの話術でお願いしますよ」
ニヤニヤしながら雅紀が言う。
「風間のためだろ」
「……」
「別れさせたくねーんだよ、お前らを。もう、あんなん嫌だろ?」
湊は黙って食べかけのカツを見つめた。
食べる気も失せてきた。
「俺だって一応、風間は友達だし。守ってやりてーじゃん」
雅紀に心から感謝する。
「サンキューな」
雅紀はニッと笑うと、残りのカツを食べ始めた。
その日の夕方、湊は学校からの帰り道、陽向に電話した。
『は、はい』
なんだか声色がオドオドしている。
「おう、今帰り?」
『そーだよ…どーしたの?』
「駅で待ってる」
『え、な、なんで?!』
「なんとなく。俺も今日学校行って、今その帰りだからさ。そのまま駅行くわ」
『…わかった』
「じゃ、後でな」
通話を切る。
何かあったのだろうか。
ひどく焦っているような感じだった。
湊は何もない事を祈り、駅までノロノロ歩いた。