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It's
【ラブコメ 官能小説】

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☆☆☆☆-3

あと1週間で終わり、あと1週間で終わり、あと1週間で終わり…。
陽向は心の中でそう唱えながら電車を乗り継いだ。
改札の外には、いつもと変わらぬ笑顔の優菜。
鳥肌が立つ。
「おはよ…」
「おはよー!あと1週間だね。頑張ろう!」
なんなんだその笑顔は…。
昨日のネズミを思い出す。
送り付けたことによる満足の笑みなのだろうかと思ってしまう。

実習先に着き、先週と同じような流れでそれぞれ利用者さんの家に向かう。
今日はまたあの村田さんが担当だ。
「今日行くところは結構キツいかもしれない」
村田さんは苦笑いしてそう言った。
車で20分程の所にあるその利用者さんの家は、集合団地の4階だった。
エレベーターが無いため、急な階段を4階まで上る。
目的の部屋に着きインターホンを鳴らして入ると、物凄い景色が目に飛び込んできた。
玄関と思われる場所は、靴を脱ぐ場所もないくらいゴミで埋め尽くされ、すぐ側の台所と思われる所は何だか分からない物で溢れかえっている。
「こんにちわー」
「おじゃましまーす…」
ゴミで埋め尽くされた廊下を歩き居間に入ると、利用者さんが窓際の椅子に座っていた。
「あらあら。今日だったっけ?どうもねー」
「そうですよ、今日は月曜日。足の具合はどうですか?」
村田さんが笑顔でその人に話し掛ける。
「うーん。あまり良くないのよ。痛くて痛くて…」
包帯でグルグルに巻かれた爪先から異臭が漂っている。
包帯は浸出液で汚れてしまっている。
「あらら。じゃあ、取り替えましょうね。お風呂場まで歩けます?」
「はい…」
利用者さんはゆっくり立ち上がると、壁や戸棚を使って伝い歩きをしながらお風呂場まで向かった。
椅子に座ってもらい、シャワーでぬるま湯をかけながら包帯を外していく。
全部取り去った時、陽向は息を飲んだ。
爪先は赤黒いというか、ほとんど黒色に変化し、小指以外壊死してしまっている。
4本の指の部分からは組織が丸見えで、若干の血液が染み出ている。
「いたた…いたた…」
「もうちょっとで終わりますからね」
村田さんは慣れた手つきで爪先にわずかに付着した塗り薬を落とすと、清潔なガーゼを取り出して水分を優しく拭き取った。
痛そう…。
と、思っていた時「風間さん、ちょっと手伝って」と言われて焦る。
「は、はいっ!」
陽向は村田さんが塗り薬を塗りやすいように足を持ち上げた。
「あら、学生さん?」
「そうよ。実習に来てるんです」
「こんにちわ、よろしくお願いします」
「可愛いわねー。孫みたい」
利用者さんはニコッと微笑んだ。
「こんな汚い足見せちゃってごめんねぇ」
陽向は何も答えることが出来なかった。
なりたくてなった訳じゃないのに…。
汚いなんて思わない。
「なーに言ってるんですかー!すごく良くなってますよ。前より包帯も汚れないし、痛いのも楽になったでしょ?」
「そうね。村田さんのおかげだわ。良くしてもらって嬉しい」
村田さんと利用者さんが楽しそうに話す。
陽向はその会話を聞き、少しほっこりした気分になった。
帰りの車内で、村田さんが口を開いた。
「前はもっとひどかったの。行く度に包帯がびしょ濡れで、処置の度に叫びながら痛いって言ってた。でも今はあんなに良くなって…。あーゆーの見るの初めて?」
「初めてです…」
「だよねー。だからキツいかもって言ったの」
「そんなことなかったです!」
「おー。強いね。結構気分悪くなる子とかいたけどね。風間さん、外科向いてるかもね!」
村田さんはガハハと笑った。

帰り道、今日の事を優菜に話す。
「すごかったよー、足」
「そーなんだ。あたし、無理かも」
確かに、無理そうだ。
クリニックとかで働いてそうなキャラだしなぁと思う。
「でも、今までの実習の中で在宅が一番楽しいかも。今日学校行って本借りてこようかな」
今日は最後まで優菜と一緒か…。
心の中で落胆していると、ポケットの中で携帯がブルブルと震えた。
取り出してみると、湊からの着信だった。
なんでこんな時に…!
「電話?五十嵐くん?」
なんで何でも五十嵐くん?って聞くんだよ!
しかも事実なので尚更焦る。
「えっ?!あ、違うよ!楓!」
陽向は通話ボタンを押し、応答した。
「は、はい」
『おう、今帰り?』
ドギマギしながら話をする。
『駅行くわ』
はい?!
最悪のシチュエーションだ。
これじゃ、優菜と鉢合わせしてしまう。
でも断ったら変に思われるだろうし…。
湊は優菜の事はもう何とも思っていないだろうし会っても湊は何も思わないかもしれないけど、絶対ブログに何か書かれるに違いない。
かと言って後で湊に「優菜も一緒だけど」ってメール送るのもおかしいし…。
頭の中で色々考えたが、いい言葉が思いつかず「わかった…」と言ってしまった。
後悔する。
どうしよう…。
陽向は不安に押し潰されそうになりながら、優菜と電車に乗り込んだ。


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