霊妙-5
時間が経つにつれて不思議な心地になっていった。
(千秋と二人でペンションで過ごしている……)
否定しながらもそこに引き込まれていく感覚に陥っていった。
(夢なら夢でいい…)
食事をしながら、篠原はあえて詮索をしなかった。
(この娘は千秋だ。いや、千秋でなくても、この可愛い娘と楽しい夜を過ごそう。二度と還らない青春時代……その想いに浸ろう……)
「夏が終わるとこの辺は淋しくなるんだね」
「ええ。夏の明るさが嘘のよう。……冬はもっと淋しくなるわ」
「そうだろうね」
窓から外を見るとすでに闇に包まれていた。
「日が短くなった」
篠原が独り言のように言うと、『千秋』も窓に目を向けた。
「冬はお客さんも少ないんだろう?」
「スキー場の近くはいいんでしょうけど、ここは……」
「冬はどうしているの?」
「眠っているわ」
篠原は思わず噴き出したが、彼女は穏やかな表情を崩さなかった。
「冬眠か……それは一番楽でいいかもしれないね」
『千秋』が顔を伏せ、ふたたび面を上げた時、篠原はその眼差しに射すくめられた。
「楽でもないのよ。春を待つなら必ず季節は巡って来るけれど、人を待つのは辛いのよ」
「………」
「やっと会えたのよ……」
『千秋』は立ち上がると篠原を見据えたまま服を脱ぎ始めた。
(?……!まさか……)
「私に会いに来てくれたんでしょう?」
言葉を呑み込み、見守る中、床に服は脱ぎ捨てられ、篠原はぎょっとして身を引いた。一糸まとわぬその体は娘のそれではなかった。乳房はやや垂れて、腹部は弛み、何より肌の張りがない。顔が若々しいだけにその肉体は不気味にくすんだように見える。
「もうすぐ四十になるのよ。長かったわ……さあ……」
手を差しのべられて、篠原は無意識に衣服を脱いでいた。
「星野さん……千秋さんなの?」
何も答えない。ただじっと篠原の動きを見つめている。自分の意思とは無関係に体が動いていく。
「ベッドルームに……」
後に従い、篠原と『千秋』は絡まるようにベッドに倒れ込んだ。
「千秋……なんで君は……」
何から話していいかわからない。
「あなたが好きだったのよ」
「俺だって、好きだった。でも、君は高野と」
「雅子さんが言ったのね」
「?……」
「あの夜、雅子さんに呼び出された。……そして言われたの。篠原さんと結ばれたって。だからそのつもりでいてねって……」
「そんなこと……雅子とはその時、何もなかった。それまで手を握ったことさえなかったんだ。高野と君のことを聞いて、俺はそれで……」
「高野さんとはお付き合いしたことはないわ。その時も、その後も……」
「何だって?」
「本当よ。あなたは信じてしまったのね……」
篠原は得体の知れぬ大いなる感情に襲われて『千秋』を抱きしめた。
「ああっ」
絡み合い、唇がぶつかった。
(千秋を抱いている!)
互いに唇を貪り、体を擦り合わせて燃えた。乳首を咥えてのめり込んで舐め回した。
(時よ、戻れ!)
「愛してたんだ」
「篠原さん!」
千秋がのけ反って大きく脚を開いた。押し付け、手を添えるまでもなく若き日の漲りをみせた一物が秘裂を割った。
「ううう!」
両脚ががっしりと篠原を抱え、ぐんと突き上げ、ペニスは捩られた。
「こうなりたかったの!」
「千秋!好きだ!」
昂奮に任せて一心に突いた。溢れくる妖液に塗れて滑らかな襞の感触がまとわりつき、きらめく快感を生み出していく。
「一つなのよ!私たち!」
千秋が叫んで腰が跳ねた。その動きにともなって膣が二度三度と収縮し、あまりの瞬発力に危うく弾き出されそうになった。
「ううう……」
「ああ!どうにかなっちゃう!」
「イキそうだ」
千秋を抱え込み、猛然と打ちつけた。
「千秋!」
「一緒よ!一緒!」
ダムが決壊する。
「ああ!チアキ!」
「マコトさん!マコト!」
絶頂の痙攣が一体となって二人を襲った。
「あなたの子供が欲しい!」
構わない、いや、産んでくれ。篠原は突っ張って噴射した。
どれくらいたったのか、朦朧とした頭がやや醒めて、おやっと思った。体験したことのない快感だったのに余韻がない。気づくと納まったペニスは変わらず硬度を保っている。むしろさらに隆々と脈打っている。
(どうなっているんだ?)
抜かずに連続して行ったことはない。
失神していたようにぐったりしていた千秋の下半身がうねり出した。そして彼の胸を押し、仰向けにするとそのまま上になって息を弾ませながら見下ろした。
「取り戻すのよ……」
言ったかと思うと濃厚な抜き差しを開始した。
(そうだ、取り戻すんだ……)
篠原も彼女に合わせて動いた。
「千秋……」
「まことさん……」
(いい気持ちだ……)
名前を呼び合い、動き続け、千秋を抱えた。
気持ちがいいのに終わりが見えない。二人の汗が飛び散った。
(このまま死ぬのかもしれない……)
なぜかそんなことが過っていった。恍惚の中、それは透明感をともなった至福の境地の感慨であった。
心地よい千秋の重みを感じながら、彼はいつ眠ったのか憶えていなかった。