想いの行方-1
全く、恋は盲目なんてよく言ったものだ。
日に日に雅への想いは募る一方。授業や休み時間でたまに目と目が合って、彼女が笑いかけてくれるだけでテンションが上がってしまう。
出来の良すぎる兄弟を持つ者同士の気苦労のようなものを分かち合えたおかげだろうか、雅の視線は贔屓目に見ても好意的に感じた。
桝谷のおせっかいも少なからず関係しているのだけど。
「あーあ、腹減った」
そんなおせっかいをしている自覚の無い桝谷が、俺の机に伏せながらため息を吐いた。
相変わらずデカイ身体。イカつい顔にしてはやけに長い睫毛。ゴワゴワの硬い髪。普段の俺なら、人の机に陣取るコイツの頭を叩く所なのだが、今日は気分がよかったからそのままにしてやった。
このアホは、意外や人の気持ちを見抜くのに長けていて、俺が隠していた想いをズバリ言い当ててしまったのだ。
「博次ー、雅ちゃんのタイプってパッと見怖そうな奴なんだってよ。顔だけで言ったらお前が結構ストライクみたい」
こんなふざけたことを、とある昼休みの学食でいきなり言ってきた時は、驚きのあまりかっこんでいた飯をブーッとコイツの顔面にぶっかけてしまった。
「何すんだよ」なんてブーたれながらも、顔を米粒まみれにした桝谷はニヤニヤしながら俺を見た。
そして、たった一言、
「最近お前と雅ちゃん、目が合っては微笑みあったりなんかしちゃってさ。なーんかただならない雰囲気感じんだよね。実は密かに付き合ってんの?」
などとのたまったのだ。
もちろん、そんな嬉しい出来事なんてあるわけもない。
相変わらず俺は雅を思いながら、愛情たっぷりのセックスを妄想しては自慰行為に励むだけ。
でも、あの日の放課後、俺がずっと気付かないように目を背けていたコンプレックスを彼女が理解してくれた、その事だけが、まるで秘密を共有し合っているかのような気持ちにさせてくれた。
そして秘密の共有は、好きという気持ちに形を変えて、どんどん色濃く隈取っていく。
だから、桝谷のおせっかいな一言は俺を勘違いさせるのには充分なほどで、恋は盲目状態の俺を突っ走らせるのは自然なことだった。