『SWING UP!!』第13話-16
吉川は確かに朴念仁だが、実は、女性経験が皆無というわけではなかった。ティーンエイジ特有の、若気の至りというか暴走というか、テニス部のOGで臨時コーチとして夏休み中に指導に来ていた女性と、ひと夏の逢瀬というべきアバンチュールを経験したことがある。
一方の詠子は、男性経験はなかったが、“耳年増”ならぬ“読み年増”なところがあった。四方を囲む本棚の一角に、“安納郷市”と“鳴澤丈一郎”の官能小説群があることを後に吉川は知るのだが、“男女の絡み”に対して、やけに落ち着いた雰囲気を持っていた詠子をてっきり“経験者”だと思い込んで、彼女の中に入ろうとしたときに、膣口に強い抵抗を感じるまでは、“処女”だということに全く気がつかなかった。
『ご、ごめん』
女の肌に触れるのも久しぶりだったので、荒々しい愛撫になっていた自覚がある。それを、吉川は素直に詫びた。
『ううん、いい……いいんだよ……』
詠子は、“読み年増”として得ていた知識以上の、処女を散らした痛みも含めた、体中に浴びたその刺激に蕩けそうになっていた。時には疎みを感じた“女である”という事を、これほど感謝した夜はなかった。
こうして、身体を通じても、男女の仲になった二人は、蒸すような時間を何度も過ごしてきた。
繰り返すようだが、“読み年増”な詠子には、性的な興味を満たそうという探究心もあり、経験値ではわずかに上を行くはずの吉川を、あっという間に追い抜いて、彼を悦ばせるテクニックを披露すること多々であった。
『魔羅とか、亀頭とか、逸物とか、業物とか、珍宝とか、珍鉾とか……日本人の言語表現力って、世界でも抜きん出たところがあるよね』
吉川の腰に収まるその“珍鉾”を目の前に、ピンク・フレームの眼鏡をかけている詠子は言ったものである。
『ここ……女の子の“あそこ”にも、いろんな言葉遣いがあってね……』
吉川に対して、自らの股間に備わっている女子の急所を晒しながら、さすがに恥ずかしそうな様子ではあった。
『“おま×こ”はよく知られてるけど、“ほと”っていう、古典にも出てくるぐらい由緒のある言葉もあるし、“あわび”とか“ザクロ”とか、もう見たまんまだよね』
詠子は、脚を開いたまま、話を続ける。吉川の視線が、詠子の“あそこ”に釘付けになっていたのは、言うまでもない。
『それに、“観音様”とか“弁天様”とか、拝みたくなる言葉もあって、性器崇拝というか、こんな場所にも“神様”がいるって考える日本人て、ホント、“高尚な変態性”は世界でも群を抜くと思うよ。“HENTAI”って、世界でも通じるものね』
なまぐさみのある行為の最中に、なにやら教養的な会話が挟まるのは、この二人のセックスの特徴といっていいかもしれない。