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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第13話-15

『………』
 それを受けて、詠子の眼鏡のフレームが黒くなり、そして、ついに白くなったことは、既に述べた通りである。
『須野原さん、あのさ…』
 詠子の様子が、明らかに余所余所しくなったことで、逆に吉川は、焦りのようなものを覚えた。無意識のうちに、詠子のことを気にかけている自分に、ようやく気がついたのである。
『僕、ひょっとして、君になにかしでかした?』
『キミ、本気で言ってる?』
 まさに、“白眼視”というべき視線に射抜かれて、吉川はうろたえる。本気で分かっていない、ということが、その仕草でよくわかる。
『はぁ……』
 深い溜息のあと、なにか観念した様子で、既に触れたように、詠子はこう言ったのだ。
『キミのこと、好きになったのに、どうして気づいてくれないのかな』
 直後、愕然とした表情のあとに、顔を真っ赤にして逆上せあがった吉川を見て、詠子はいささかその溜飲を下げた。
『キミ、本当に鈍感なんだね』
 言葉とは裏腹に、詠子は白色のフレームをした眼鏡を外して、赤色のそれを掛け直していた。この時ばかりは吉川も、それが、“もっと話をしよう”という合図であることに気がついた。
『連れて行きたい所があるんだ』
 それならば、と、吉川は詠子を行きつけの小料理屋に誘った。
 そこは“のんべ庵”といって、カウンター席しかない、本当に“隠れた名店”というべき小料理屋で、詠子の本棚に池谷正三郎の“剣戟小説”を見つけていた吉川は、彼女も気に入ってくれるかもしれないと、その場所を案内したのだ。
『ここの蕎麦が、絶品でさ』
 信州の出身という店主が自ら打った蕎麦を肴にして、日本酒を愉しむ。まさに、“剣戟小説”の舞台となる江戸時代の一風景を思わせる吉川の酒の嗜み方に、詠子がその興味を募らせたのは言うまでもない。
 “のんべ庵”で、二人だけの時間を重ねるようになって、詠子の遠まわしな“告白”から始まった二人の関係は、あっという間にその距離を縮めた。
『キミ、歩いて帰るなんて言わないでさ。……部屋に、寄っていきなよ』
 “のんべ庵”で話込んでしまい、終電を逃がしてしまった吉川を、詠子が自分の部屋に誘ったとき、さしもの彼も、言外に潜む詠子の気持ちを察して、緊張して固まってしまった。
 詠子の眼鏡のフレームが、“ピンク色”になっていたのも、この時が初めてだった。
『えっと、その色にはどんな意味があるんだい?』
 吉川は、眼鏡のフレーム色によって詠子の気分が表れていることを既に知っていたので、初めて見る“ピンク色”に、当然ながらその問いを発した。
『色のままの意味だよ』
『………』
 うっすらと頬を染めつつ、はにかんでいる詠子のことを、吉川は衝動的に抱き締めていた。それを待っていたかのように、詠子も、吉川の求めに応じるまま、自分の全てを吉川に晒して委ねていた。


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