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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第13話-13

 
 …物語の“スポット・ライト”が照らす位置を、少しばかりずらすとしよう。

 結花と航が、その距離を少しずつ近づけている一方で、出会ってから“電光石火”というべき素早さで“深い男女の仲”になった二人もいた。
「キミの体、いつも湿布だらけだね」
「まあ、下手っぴだからさ…」
 四方を本棚で埋め尽くされた、“彼女”独特の部屋に上がっている吉川は、岡崎に志願して受けた“ハード・ノック”の痕を、その“彼女”に見せる形になっていた。
「ガンバってる、証だね」
「さ、触っちゃ、ダメだよ?」
「えー。残念…」
 湿布をしているところに、指を伸ばしかけてきた“彼女”を、吉川は制する。
 時間帯は深夜であり、既に電車もバスもない。にも関わらず、吉川が“彼女”の部屋に上がり込んで、あまつさえ、半裸になっているという状況を考えれば、二人の関係が何処まで進んでいるかは、想像に難くないだろう。
 電光石火、と、そう言った理由はここにもある。
 ちなみに、吉川を部屋に呼んだのは、その主である“彼女”だ。
 吉川と同じゼミに所属する“彼女”の名前は、須野原 詠子(よみこ)という。
 カラフルな縁取りをした眼鏡がトレードマークで、黒々とした跳ねひとつないストレートヘアーが、見るからに典型的な“文学少女”を思わせる、そんな女子である。実際、“本棚の中で暮らしている”と思わせるほど、部屋の四方を埋めるその蔵書を見れば、“詠子”と書いて“よみこ”と読ませる名前が、これほど当てはまる女子もいないだろう。
 そして、詠子は今、ピンク色の眼鏡をかけていた。
「………」 
 その“シグナル”の意味を知っているので、湿布を貼り直すために上半身を半裸にしていた吉川は、滾るものを抑えるのに精一杯だった。
 詠子は、その気分によって、眼鏡のフレームカラーを変える。赤色の時は、会話も行動も活発になり、青色の時は、理知的で物静かな雰囲気になる。黒色の時は、気分が沈み、ストレスが溜まっている状態で、きちんと気にかけてあげないと、他人を寄せ付けない白色のフレームになってしまう。
 白色のフレームになると、機嫌を直すのに相当の時間と労力を要することになる。そして吉川は、黒のフレームから白のフレームに変わった時を、一度だけ見たことがあった。
『吉川クンが、鈍感だからだよ』
 白のフレームが連日続き、明らかに不機嫌な様子の詠子をなんとか宥めて、ようやくその理由を訊き出すことができたのだが、それは同時に、吉川と詠子の関係を、大きく進めるものになった。
『キミのこと、好きになったのに、どうして気づいてくれないのかな』
 言われてようやく、様々な形でアプローチを受けていたことを悟って、己の愚鈍さに愕然とする吉川であった。


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