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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第13話-14

 話は、前後するのだが…。
 詠子とは、3回生になったことで所属することが必修となった“史料解読ゼミナール”で初めて面識を持った。2回生までの、大教室で開講されていた教養科目講義には、おそらく同席もしていたのだろうが、人数が多い中でのそれとは違って、“史料解読ゼミナール”は少人数単位での受講となるので、お互いの顔と姓名が一致するのは、やはり初めてであった。
 吉川と詠子が所属した“史料解読ゼミナール”の講師・塚原は、課題が多いことで、学生からは敬遠される傾向があり、選択猶予のある開講二回目までは5人程度はいたものの、所属ゼミが確定する三回目になると、参加する顔ぶれは吉川と詠子の二人だけになった。
『今年は“物好き”が、二人も居たかね』
 担当講師の塚原は、吉川と詠子を前にして、そう言ったものである。受講者がゼロになってしまうことさえあるというのだから、そのふるい落としは、相当なものだといえる。
 早速とばかりに、史料解読の課題を山のように出されて、吉川は汲々とすることになった。幸いにして、2回生の間に、“教養選択科目”の履修はほとんど終えていたから、まとまって空いた時間を、その課題の解消にあてることはできた。それでも、ゼミでの発表内容は、散々というべき結果に終わっていた。
『キミ、大分苦労してるね』
 詠子は、塚原の“史料解読ゼミナール”が目的でこの双葉大学に進学してきた、正真正銘の“物好き”だったから、出される課題もそれほど苦には感じていなかったらしく、その解消に苦戦をしているゼミの相方というべき吉川に、なんとなしに手を差し伸べるようになっていた。
 もちろん、あくまで“コツ”を教えるだけであって、解答そのものには手を出さない。
『須野原さん、いつも、ありがとう』
 それでも、教わった“コツ”を頼りに、課題を何とかこなせるようになってきた吉川は、詠子に感謝の気持ちを込めて、ランチを奢るなど、ゼミ以外での時間の共有も増えていった。
『キミ、野球やってるんだ?』
 時間の共有があれば、突っ込んだ会話も生まれる。この大学ではほぼ唯一といってよい、本格的な課外活動に励んでいる“軟式野球部”に、吉川が所属していることを知って、詠子はその興味を更に募らせたらしい。
『市営球場で、試合してるんだね。今度、見に行ってもいいかな』
 最初は、興味から出たものだったのだろう。
『キミ、いいプレーしてたね。カッコよかったよ』
 やがて、それは、吉川の一挙手一投足への関心となり、
『身体にボール、当ててたよね。痛くなかった?』
 体を張ったプレーが身上の、吉川への心配に繋がるようになった。
『キミ、外食が多いよね』
 それじゃ、経済的にも健康的にも良くないよ、と、毎日手弁当を用意してくれるようにもなっていた。
 この時点で、知り合いを越えた好意を寄せられていることに気がつかなかった吉川は、間違いなく朴念仁である。無邪気に、弁当を作ってもらったことを、主に経済的な理由から喜んでいる場合ではない。
『野球のルール、もっと詳しく教えてくれるかな?』
『市営球場で、クラブチームの試合があるんだって。行ってみない?』
 野球のことで色々と誘いをかけてくるようになった詠子のことを、“野球好きの仲間が出来た”と、喜んでいたのだからどうにもならない。
『私の部屋で、ゴハン一緒に食べて、ナイター中継を見るのなんて、どうかな?』
 ついに女子から部屋に誘われた、というのにも関わらず、吉川は相変わらず、詠子のアプローチに全く気がついていなかった。


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