『SWING UP!!』第12話-13
「………」
仲良く、手を繋ぎあって、グラウンドを後にする、結花と航。微笑ましくも、羨ましい光景である。
(俺にも、あんな時があったな…)
関西のリトル・リーグに所属していた頃の話だ。女の子で唯一、そのリトルに選手として所属していたとある少女と、触れ合いを持っていたことがあった。
『まーちゃん』
と、自分の名前を呼んでいた、その少女。赤茶けた髪の毛を三つ編にして、消えないそばかすをいつも気にして、笑うと八重歯が可愛く覗いていた。
記憶の片隅に、ほのかな温度とともに収められている淡い思い出を、岡崎は戯れに揺り起こしてみる。
「まーちゃん」
(そうそう、確か、そんな感じの、ハスキーな声…)
まるで、録音機からそのまま再生されたような、あまりにも鮮明な“記憶の声”だった。
「……え」
いや。間違いなく、“リアルな声”だった。
「まーちゃん、やろ?」
「!」
十年近く経っても、忘れていない声だ。
岡崎は、その声が背後からかけられたと気がつくや、すぐに振り返った。
「やっぱり、まーちゃん、や!」
いつの間にここまできたのか、女性がひとり、立っていた。
(なんで、ここに、あの子が?)
記憶の中に残っている姿よりは、当然ながら、大人びていた様子だったが、あの“そばかす”は、間違いなく、思い出の中にいる少女のものだった。笑うと顔を見せる八重歯も、当時のままだった。
「まーちゃん、久しぶり。ウチのこと、忘れとらん?」
「あ、ああ…。忘れて、ないよ…」
というか、あまりに唐突過ぎて、岡崎は、目の前にいる女子が、本当に存在しているものかどうか、どうにも自信が持てない。
「なんや、ユーレイにでも出くわしたような顔して。ウチ、死んどらんし、ほれ、足もちゃんとあるやん」
健康そうな太ももが顕になるほど、丈の短いショートパンツを穿いている。それを気にする様子もなく、脚を上げてぷらぷらするものだから、その奥に目が行きそうになって、岡崎はすぐに視線を上に逸らした。
「ああ、でも、ホンマに、まーちゃんやったわ…。半信半疑やったけど、ホンマのホンマに、“岡崎 衛”って、まーちゃんのことやったんや!」
そばかすがチャーミングなその娘は、喜色満面にしている。
「…ホンマに、ウチのこと、忘れとらんよね?」
だが、ややあって、動きを完全に止めている岡崎の様子が気になったものか、そばかすがチャーミングなその娘の顔が、不審に曇り出した。
岡崎の顔を覗き込むようにして、さっきまで喜色でいっぱいだった顔を“不審”だらけにして、そばかすがチャーミングなその娘が口を開く。
「まーちゃん、テストや。できんかったら、ゲンコツやで」
「………」
「ウチの名前、言うてみ?」
「清子。……陵 清子」
「よかった。当たり、やわ」
不審が一気に払われて、陵 清子(みささぎ きよこ)という名の三つ編の娘が、もう一度、そばかすが残るそのチャーミングな顔を、歓喜の色で光り輝かせていた。