『SWING UP!!』第11話-49
「いいぞ、アルフレ！ 今日の守備のＭＶＰは、お前だ！！」
倒れこんでいる能面に、駆け寄った隼人の言葉であった。地面で擦った顎を、手の甲でさすりながら、能面は掴んだボールを隼人に手渡していた。
「屋久杉先輩、惜しい当たりだったですよ！」
「桜子。…あと、頼むな」
「はい！」
悔しさを顕にしながら、後の事を４番の桜子に勝負を託し、雄太はベンチへ戻っていく。
一塁手の好捕によって、アウトになりはしたが、彼の粘りは間違いなく、桜子を始めとして双葉大のメンバーたちの士気を高めていた。
「………」
桜子の中で、集中力が極限まで高まっていく。周囲の音が、まるで何も聞こえないほど、彼女は隼人との勝負に、その神経を研ぎ澄ませていた。
「ストライク！」
角度のある内角への、“色即是空”が決まる。しかし桜子は、全く腰も引かずに、それを悠然と見送っていた。
「ボール！」
外角にシュートした、これもまた“色即是空”が、ストライクゾーンをわずかに外れる。大抵の打者が、手を出して凡打になっていたボールだが、桜子にはその球筋が完璧に見えていた。
世界を舞台に戦ってきた、その驚異的な動体視力が、隼人の“色即是空”を完全に捉えていた。
そうなれば、バッテリーとして投げるボールはひとつしかない。
「！」
桜子の目に、回転の違う“もうひとつのムービング・ファストボール（空即是色）”が入ってきた。
「！！」
刹那、桜子のバットスイングが始動して、沈みかかったその球際を、強烈なベクトルを保持した一閃で叩きつけた。
ドガキン！
と、桜子の怪力が生み出す打撃音が響く。打球は、目にも留まらぬ強烈な勢いで、三遊間をあっという間に切り裂いていった。
「ナイスバッティング！」
当たりが良すぎて、二塁走者の岡崎は三塁に留まったが、桜子の左前打によって、好機は更に広がった。
二死・一三塁で、５番の大和が打席に立った。