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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-48

『俺と一緒に、歴史をひっくり返さねえか?』
 だから、大学で出会った屋久杉雄太に、軟式野球部の創設とそのメンバーとしての協力を求められたとき、最初はそれを断っていた。
『俺の右腕に、なって欲しいんだよ』
 それでも、執拗といえるくらいに、雄太から誘いを受け続けた。
 岡崎は、転校を繰り返していた中学生までの経歴から、親しい人との離別を怖がるところがあった。だからこそ、他人との距離を一定のところで保ち、それ以上の踏み込みを容易に許さない雰囲気を醸し出していた。
『頼む! 俺には、岡崎が必要なんだ!』
 だが、そんな岡崎の雰囲気も知らぬように、雄太は熱心な勧誘を諦めなかった。それほどまでに、自分を必要としているのか、と、岡崎が心を揺らした時点で、雄太の勧誘は成功したと言えた。
 まるで、“三顧の礼”によって出蘆した三国時代の大軍師・諸葛亮を思わせる、その後の岡崎の活躍は、これまで記述してきた通りだ。
 “隼リーグ”に参加した軟式野球部は、昨季、雄太の悲願であった“1部リーグ”への昇格を達成した。今季の1部リーグでの戦いは、言うなれば、“ボーナス・ステージ”として、雄太や岡崎に与えられたようなものだ。
 だが、さすがは“大学軟式野球の最高峰リーグ戦”と言われるだけあって、1部リーグでは、手応えのある相手との勝負を繰り広げてきた。
 今マウンドに立つ、天狼院隼人との一戦は、その最たるものだろう。
「ストライク!!」
 だから岡崎は、ツーナッシングと追い込まれても、その表情に余裕を失ってはいなかった。
 三球目を、岡崎は待つ。彼は、勝負一発、ヤマを張っていた。
「!」
 アウトコースへ、直球が来る。ぎりぎりまで引きつけていたそれが、一瞬、沈むような軌跡を描いた瞬間、彼は、スイングを始めていた。

 キィン!

「おおっ!」
 強い打球が、隼人の足元を抜けていく。“もうひとつのムービング・ファストボール(空即是色)”を、岡崎は狙っていたのだ。
 センター前に抜ける、安打である。望んでやまなかった、無死の走者を、彼は見事にもぎ取ったのだ。
「おかざきぃ! ナイス、バッティング!!」
 ベンチから、雄太が歓喜の声を挙げたのは、当然のことであった。“右腕”とも“相棒”とも呼んでくれる親友と、こうやって野球を共にできる喜びは何物にも替え難い。
(………)
 2番の栄村が、静かに打席に立った。この打席において、自分の成すべきことは、誰よりも理解している。

 コツッ…

「アウト!」
 一塁の岡崎を、何が何でも二塁に進めることだ。送りバントを堅実かつ確実に決めた栄村は、2番としての役割をしっかりと果たした。
「よっしゃ!」
 スコアリング・ポジションに走者を置いて、3番の雄太が、打席に入る。この試合の、まさにクライマックスともいうべき状況が、出来上がっていた。
 雄太はこの試合、安打を放ってはいるが、総じて隼人に圧し負けていると、言えなくもない。
(とにかく、不恰好でもいい)
 岡崎のように、バットのグリップを余し、縦横無尽に小さな変化をする隼人の“ムービング・ファストボール”に食らいついていた。
「ファウル!」
 ツーストライクと追い込まれても、何とかファウルで粘り続ける。
「ファウル!!」
 球数を多く投げさせて、“失投”を待っているのだ。
「ファウル!!!」
 三球連続のファウルボールに、球場が少しだけざわめいた。
 隼人が、セットポジションから、牽制球を一度挟む。雄太に対して、仕切り直しの“間”を取ろうとしたのだろう。
 しかし、それは、自分のリズムを少しばかり乱すことにもなった。
「!?」
 いささかコースの甘い“色即是空”が、雄太の膝元に来た。しかもそれは、わずかにスライドしたことで、ほぼ真ん中の位置に来る。
(きやがった!)
 好球必打を肝にしていた雄太は、バットを一閃して、それを思い切り叩いた。

 キィン!

「おおっ!」
 鋭い打球が、一塁線に襲い掛かる。それは、並の一塁手であれば、間違いなく抜けていたであろう強烈な当たりだった。
「いかせないヨ!」
 しかし、何度も述べてきたが、一塁手は最長選手の能面である。その長い腕を目いっぱい伸ばして、飛び掛った彼のファーストミットに、雄太の打球は掴み取られていた。
「オワッぷ!」
 勢いあまって、顎でスライディングをする能面。しかし、必死に掴んだボールを彼は、絶対に放しはしなかった。
「アウト!!」
「ちっ、ちっくしょぉぉぉ!」
 雄太が歯噛みして、歯軋りする。改心の一打であった自信があったから、それを好捕された悔しさが大きく募っていたのだ。


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