ゆあの肝試し-3
出ない。
そんなことは分かってる。
トンネルの入り口方向から戻って来いと皆が声をかける。
ならば何故着いてこないのか不思議に思った。
私はそのまま進む。朽ちたトンネル。
確かに何かが出そうな雰囲気ではある。
でも出ない。絶対出るはずがない。
私はぐいぐい進んで行った。トンネルひとつ越えてしばらく歩くと、二つ目のトンネルが見えた。
周囲を懐中電灯で照らす。青い服の女。
居ません。
仕方ないのでそのまま進む。トンネルをくぐる。
急に背後から駆け足の音が近づいてきた。
びっくりして振り返るとサメだった。
ゆあ「ふざけんな!ビビっただろ!」
サメ「いや、心配だったからよ」
ゆあ「なら初めから付いてこいよ!」
サメ「だってカメがペアだったし」
ゆあ「そのカメが来なかったんだから来ればいいんだよ!」
サメ「まぁ、ななとまりに言われたからってのもあるんだけど」
ゆあ「さいてー」
私はそのまま先に進む。サメも付いてきた。
サメ「待てって」
ゆあ「なにさ」
サメ「連れ戻せって言われたんだよ俺」
ゆあ「何でよ」
サメ「危ないんだって」
ゆあ「あんた信じてるの?」
サメ「そういうわけじゃねぇけど」
ゆあ「じゃあ別にいいじゃない」
サメ「まぁ…そっか」
私達はトンネルを抜けた。
まだ歩く。森の中を入っていく。
ゆあ「雰囲気はあるよね」
サメ「ん〜、そだな」
ゆあ「幽霊見た?」
サメ「いや、見てない」
ゆあ「そ」
しばらく歩くと小さな祠?みたいなのがあった。
ゆあ「社ってこれかな?」
サメ「じゃない?」
地面を見るとぬかるみで、足跡がある。
多分、イカとカバの足跡だろう。
ここまで来たのなら後はペットボトル置くだけだったのに…。
何かあったのかな?とか、そう思った時だった。
サメ「…走るぞ」
サメが小さな声でそう言った。
ゆあ「は?」
サメ「いいから。上を見るな。そのまま振り返って来た道走るぞっ」
声を抑えて、それでも勢いのある言葉に私は少し恐怖した。
上を見たらいけない?
もし上を見たら何があるの?もしかして本当に居るの?
…上に?
誘惑に負けそうになって私は上を…
向こうとしたらサメが私の手首を掴んで走りだした。
ちょwおまww
速い。八重歯がキュートなくせに駿足ワロタw
グイグイ引っ張られる。足がもつれる。ってか手首痛いw自重しろww
何度も転びそうになる。でもなかなか転ばない不思議。
必死になって私も走るがやっぱり足がもつれて上手く走れない。
サメ「やばいやばいやばい!」
サメまで皆と同じこと言ってウケた。
何がやばいんだw私の方が今やばいじゃねぇかww
こけるっつぅのw
で、
かなり走ってからふと気付いた。
トンネルに着かない。
おかしいな?って思った。だってこの速度ならもうとっくに着いててもおかしくないんだ。なのに、ずっと走ってるんだよ。
森の中を。
一本道のはずなんだよ。おかしいじゃん?
森の出口につかないの。
ウケたww
迷路かよww一本道のww
ありえねぇwww
で、サメが走りながら言うの。
サメ「やばいやばいやばいやばい」
聞いたっつーのww
何回も聞いてるっつーのww
むしろやばいのお前だっつーのwww
ってか、実はサメが本当にやばかった。
で、思っちゃったんだ私。
ヤバいのは幽霊とか私とかじゃなくて…
皆だったんじゃないか?
それを思ったらサメがピタッと足を止めたんだ。
はぁはぁって私もサメも息が荒い。ほぼ全力疾走だったから。
したらサメがね、
サメ「出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない出れない」
何回言うんだよ!ww
って、ツッコミたかったんだけど
この私がツッコめなかったんだ。
幽霊とか信じてないよ?そういうんじゃないんだ。
怖かったんだ私。
サメが。
サメがいつものサメじゃないんだ。
八重歯がキュートのサメじゃないんだ。
むしろその八重歯が怖く感じたんだ。
んで、まだずっと言ってるの。
出れないって。
やばいって、思った。
やばいやばいやばいやばいって、皆みたいに言いそうになった。
でも《そうなっちゃいそう》だから言わなかった。
言えなかった。
サメはひとしきり出れないと言った後、私の方に顔を向けて笑顔でニコってした。
私はそれでもやっぱり
サメが怖かった。
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