幻影-6
唇が掠める距離で、彼女の目が不意に反らされた。
「・・・・は、」
継いで、アズールの唇から短い笑みが零れ出る。
先ほどまで内臓を掻き回し脳を占領していた灼熱の闇が、そのたった一回の笑みで全て吐き出されてしまったかのように。
支配していた靄から垣間見えた彼女の顔は、酷く狼狽えて見えた。
・・・・誰にも似つかない。
闇の淵で手を伸ばし必死で目を凝らしたものは、その瞬間、深く脳裏に沈んでしまう。
「・・・・ごめん、また意地悪が過ぎたかな」
「意地悪・・・・?」
「シウの困った顔が可愛いから、意地悪したくなっちゃうんだよ」
「は?お前、仕事する気あるのかよ」
「なかったかも」
そう継いでやれば、あからさまに呆れて見せたシウの顔。
甘く棘のある毒に痺れながらアズールは、心に巣食う闇のその先から、そっと目を反らした。
「大丈夫、シウが怖くなったらちゃんと止めるから」
「・・・・なら、ちゃんと訊けよ」
「生意気なペットだなあ。恥ずかしがり屋なのは可愛いから許すけど」
「恥ずかしくなんか・・・っ」
「君はイイコだ。本当に、信じられないくらい。俺の元に来てくれて、ありがとう」
「・・・・っ、本当にあんた調子狂う!意味分からないっ」
二本の腕に阻まれた狭い隙間で、とうとう、シウの真っ赤な顔がシーツの波に飲み込まれて見えなくなった。