幻影-14
そう言ってアズールが満足そうに頷けば、シウは黙って俯く。
その姿は宛ら仔犬のようで、ペットという表現も強ち似合っていると思う。
「シウ?」
「・・・もっとタフになれる薬はないのか?」
「それ、もっと気持ち良くなりたいってこと?」
「っ違うよ!でも、でもさ、状態を継続できたら、・・・もっと捗るんだろ?」
「うーん・・・。でもそれは辛いだろうし、俺には俺のやり方があるし。そんなことシウが心配する必要ないよ」
「辛くても毎日同じこと繰り返すなら、すぐ終わった方がいいじゃない」
「実験が嫌になった?逃げたくなったかな」
「そうじゃないけど・・・」
「早く楽になりたい?」
煽って窺えば、こくんと弱く上下した頭に思わず溜め息が零れた。
言ってしまえば、彼女が描く「楽」が訪れることはない。
アズールは実験の一貫という名目の元、初めから彼女を飼うつもりで購入したのだ。
第一印象は一重に興味深い人材であったことに尽きるが、今では愛着もひとしおに湧いている。
加えて持ち合わせていた芯の強く正直な性格。
これがもし彼女の上部の姿だとしても、うたた寝が出来るくらいには居心地の良さも覚えてしまった。
「シウ、俺の作る薬がどんなものか知ってる?」
「催淫剤だろ?」
「そう。じゃあ何種類あると思う?」
「種類?」
「興奮剤や誘発剤、弛緩催淫なんていうのもある。どれも理性を惑わすものだね」
「そんな貴族サマの腐った戯れなんか知りたくもない」
聞くや否や吐き捨てたシウに、アズールは声を上げて笑った。