幻影-13
このまま眠っていたら揺すり起こすだろうか。それとも放っておくのだろうか。
そう思った矢先、椅子に腰掛けベッドに突っ伏していたアズールの身体がグイ、と引っ張り上げられた。
勢いよく前のめりに転がった胴体から半歩遅れて、投げ出すように足がシーツの上に横たわる。
その小さく華奢な身体の一体どこに、そんな力を隠しているというのだろう。
「・・・・シウ、痛いよ」
「えっ、あ、ごめんっ」
「なに、俺の首でも折りたかったの」
「馬鹿!違うよっ。そんな体勢じゃ眠りづらいだろうと思って」
「ありがとう。お陰で目が覚めたよ」
「うわー。性格悪っ」
ころころ表情の変わる幼い顔は見ていて飽きない。
それどころか、もっとずっと見ていたいとさえ思えてしまう。
例えば、目一杯の笑顔とか・・・・。
うっかり想像してしまったそれを、アズールはかぶりを振って遠ざける。
その瞬間、彼に襲い掛かるのは既視感という名の影に他ならない。
普段、どこにも現れないくらい奥底に沈めている影は、気を抜くとこうしてアズールの隙を突いては顔を出してくる。
これみよがしに笑う、少女の残像。
その影が色濃く浮き彫りになる前に、目の前のシウに視線を戻した。
「シウ、体調は?」
「ああ、うん。元に戻ったみたい」
「効くのも早いけど抜けるのも早いね。良い調子だ」