ゲレンデでの出逢い-1
麻衣子24歳
■ゲレンデでの出逢い
雪ってこんなに綺麗だったんだ。麻衣子は雪の塊で出来た斜面を見てそう思った。
別に雪が珍しい訳じゃない。私は仲間ん家の近くで、しょっちゅう雪が降るのを見ているし。雑木林で覆われた場所なんだけど、その時の雪ってやっぱり恐い。
だから私は、雪景色を見ただけで、他人から「あの銀世界が素敵だ」なんて言われても「この人、一体何言ってるのかしら」ぐらいしか思ってないのよ。
でも、今こうして雪山を見たら本当に綺麗。信じられない。このまま帰るのが惜しくなってくるわ。
「「「麻衣子〜!」」」
向こうで私を呼ぶ声がする。私達は白馬村までスキーに来ている。私、美紀、理沙、それから私達のリーダーである聡美を入れて計4人。でも、私を含めて殆どがビギナー。美紀が多少経験あるようなので基本だけ教えて貰ったんだけど、殆ど滑れない。
それでも気持ちいい。何かスピードが出てきた。私は坂を滑って行く。快感だわ。どんどん加速して行く…
もっと速くなるのかなあ
もぅいいわよ
止まって!
えっ?板が動かない
うそぉ…どうしよう
いやよ…ぶつかるぅ
誰か止めてぇ〜〜〜!
すると、後ろから強い力で誰かに抱き締められ、股の間に足を入れられて重心が低くなる。そして、抱き締めてきた人とコロコロと転がり…最後に止まった。
目の前にはどこまでも広がった青空がある。そう、私は雪を被ってから仰向けに倒れていた。
「大丈夫ですか。お怪我はありませんか?」
誰かが私の背中を抱きかかえている。少し年上の男の人だけど、何てカッコいいのかしら。
「(…やっぱり…白馬に乗った王子様って…本当にいたのね…もう少し…こうしていたい…ね…いいでしょ)」
「はっ!スミマセン」
我に返った私は、起き上がった。
「あ、ありがとうございます。助けて下さって」
「いえ、たまたま近くを滑っていましたので。本当にお怪我ありませんか?」
「あっ、はいっ。大丈夫です」
「良かった。でも、後から痛くなるかも知れないし」
「そうなんですか。貴方のほうは?」
「ああ、僕のほうはこの通り。心配いりません」
男性は立って笑顔で滑る真似をしてくれた。
「良かったぁ。私のせいで怪我したらどうしようかと思ってたので」
「立てますか?」
「はい!」
私も笑顔で答える。そういえば、私って今までこんな笑顔になることなかったわ。フッと自然に笑いが込み上げてくる感覚。すると男性はいう。
「ちょっと手足を動かしてみましょうか。それで少し滑ってみて」
「ああ、そうですね」
私は途端に滑れない事が恥ずかしくなった。なぜかしら。さっきまで全然気にならなかったのに。
「やっぱり今日は疲れたから宿に帰ります」
って私は何を言ってるの?このまま帰ったら、もう二度と逢えなくなるじゃない。えっ?今、何て思った?
「そうですか。引き留めてすみませんでした」
彼は去ろうとしている。
「あのぉ…」
「何です?」
「今…携帯持ってますか?」