深まる溝U-1
蒼牙は神官らしく、葵の手の甲に口付けを落とした。
「・・・っ」
きゅっと唇をかみしめる葵は蒼牙に口付けされた手をサッと引いた。
「違う・・・神官としての言葉が聞きたいんじゃない・・・、私は・・・っ!!」
その時・・・、
スッと葵の背後に漆黒の影が寄り添った。葵の視線を片手で覆って耳元で囁く。
「お前は誰にも渡さない・・・」
はっと目を見開いた葵は視界の端にその横顔を捉えた。
「・・・九条」
九条の言葉の意味を図りかねていると、ゼンが葵の肩を引き寄せた。
「悪いが・・・
それは俺のセリフだ」
ゼンは肩を抱くその手に力を込めると、九条を睨んだ。
「それに・・・
そんな遠い言い回しじゃ、葵には伝わらないぞ?」
スッと葵を抱きしめたままゼンは背後に移動した。
バサッとゼンの大きな翼がはためいて・・・
「いつまでも王離れが出来ないというのなら・・・その機会を与えてやろう」
ゼンと葵はそのまま下界へと急降下していく。
「こら待て!!ゼンッ!!」
蒼牙の声がこだまする。追いかけようとした彼の手を、何者かが掴んだ。
「何すんだよっ!!」
彼を阻止したのは他ならぬ仙水だった。
「今追いかけては・・・葵様を苦しめることになります」
「・・・っ!!だからってな!!
このままじゃ・・・っ!!」
凄む蒼牙に動じず、仙水はその手を離すことはなかった・・・
――――・・・
ゼンは葵を抱きしめたまま雄大な大地を駆け抜けた。彼の大きな翼は光を受けて美しく輝いている。
「ゼン様の翼、とても綺麗・・・」
ゼンの首に手をまわしている葵は、その美しさに目を細めた。そして、手を伸ばしてその羽に触れようとする。
「あとでゆっくり触らせてやるよ」
色気を含んだゼンの声が葵の耳元をくすぐる。
「・・・ぁっ」
小さく声をあげた葵の反応をみて楽しそうに笑うゼンは、わずかに顔を動かして葵の頬に優しく口付けをした。
柔らかなその感触に、心が穏やかになっていく葵は・・・安心したようにゼンの胸元に顔を埋めた。抱きしめたゼンの腕に力がこもる。
「・・・さて、日が暮れる前に寝床を探すか」