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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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深まる溝T-1

「お部屋で待っている方がいるのでしょう・・・どうぞお戻りください」





葵へと視線を向けることなく、仙水が破片を拾い上げる。





「待ってるやつって誰だよ」





蒼牙が怪訝そうに仙水へ問いかける。蒼牙からしてみれば大和がいきなり噴水を破壊し、仙水は何か含むような言い方をして・・・葵は困ったような表情を浮かべている。





「俺だ」





声がしたほうに視線をうつすと、柱に寄りかかったゼンの姿があった。





「な・・・っ!!
お、おっさんいつの間に!!」





「食事はのちほど、葵様の部屋にお持ちします」





目も合わせず一礼して仙水が下がった。なんとも言えない重苦しい雰囲気に蒼牙が首を傾げると、ゼンに手を引かれた葵は部屋へと戻って行った。





大和が中庭から離れて、東屋へと向かう途中・・・九条とすれ違った。





「・・・・」





九条は何も言わず大和の横を通り過ぎる。





「何も聞かないのか」





大和が振り向かず九条へ問う。





「・・・大方の予想はつく」





その言葉を聞いた大和は、ふっと自嘲的な笑いを浮かべ・・・ため息をついた。





「想いを伝えれば・・・彼女を困らせることになる。だからと言って、葵が誰かのものになるのは見ていられぬ・・・」





そう言う九条の表情は読み取れず、大和はどうにもならない気持ちに苛立ちを覚えた。





「時が解決してくれる、とは言ったものだが・・・何をどう解決してくれるのだろうな・・・」





葵に伝えたいことはたくさんある。この胸の内を彼女が聞いてくれたら・・・どんなに幸せかと思いを馳せながら、大和は呟きながらひとり空を仰いだ。






――――・・・





その場から動こうとしない葵。
そんな葵に蒼牙が近づく。





「・・・なぁ葵、
俺達の幸せが何なのかなんて・・・すげぇ簡単な事なんだ」





「え・・・」





戸惑いながら蒼牙を見つめ返す葵。その瞳には罪悪感や後悔の色さえ感じられた。





「俺達はお前が笑ってくれたら幸せなんだ」




優しく微笑む蒼牙は葵の手を握りしめ、蒼牙は静かに目を閉じた。





(これでいい・・・)






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