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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』第2話「訪問者」-7


 兵太の蒐集物の中で最もお気に入りは、“安納郷市”という作家のもので、官能小説にはほとんどといっていいはずの“乱暴さ”を極力抑えながらも、濃密なエロティシズムと共に描かれた純な恋愛の物語が浩志のツボを捉えていた。
 驚くべきことに、よほどに安納郷市のことが好きなのか、兵太は彼の著作を全て揃えていた。
 付け加えるならば、轟 兵太はとある文芸雑誌で“官能を揺さぶる芸術家たち”と題する特集記事を書き、その第1回目に“安納郷市”を取り上げている。それほどまでに、安納郷市に心を寄せているということである。
(よっぽど、できた女性なんだろうな)
 官能小説が好きな男に嫁したという一事はともかく、仕事でもその取材に全国を飛び回る兵太だから、一つ所にはほとんど腰を落ち着けていないはず。そういうところを全て許容しているということは、相当に度量の深い女性であることが想像できる。
「…っと」
 いろいろと考えをめぐらせていた浩志は、気がつけば駅前までたどり着いていた。
「ちょっと、早いか」
 電車が駅に着く予定時間までは、かなりある。駐車のできるスペースに車を落ち着かせたものの、手持ち無沙汰なのは仕方ない。
 郊外にあるから、駅の周辺は閑静このうえない。人通りはほとんどなく、駅も実は無人なのである。
「ふ、あふ……」
 不意に、碧が口元を抑えていた。のどかな空気にあてられて、緊張が緩んだのだろう。
 それに朝から情事に耽っていたので、結局は寝不足を解消しきれていないはずだ。
「碧、眠い?」
「あ、ご、ごめんなさい」
 はしたないところを見せてしまい、碧は少し頬を染める。
「………」
 そんな仕種を見せられて、不意に浩志の胸が高鳴った。朝の情事を俄かに思い出してしまったというのもある。
「あっ…。ひ、浩志さん」
 気がつけば、左手が碧の方に伸び、スカートの中にもぐりこむようにして彼女の太股を弄っていた。
「だ、だめですっ……ダメッ……」
 さわさわ、と太股の内側をくすぐられるように撫でられる碧。身体の奥に鎮めていたはずの劣情が湧き出して、彼女はそれに抗うように身を捩らせた。
「こんなところで……ダメ……ダメです……」
 駅前に人通りはなく、周囲も閑散としているが、車内とはいえ“外”には違いない。
「………」
 そんな碧の言葉も聞こえていないのか、浩志の太股を弄る行為はどんどんとエスカレートしていった。スカートの裾が持ち上がり、純白の下着も露わになるほど、浩志の撫でる行為は動きが大きくなっている。
「あ、ん……ダ、ダメ、ですってば……」
 碧も、抵抗というにはそれが薄い。太股に伸びてきた手を軽く叩けば、浩志も行為をやめるであろうに、そんなことは一切しないで、言葉だけで彼に理性を取り戻させようとしている。
 はっきりいえば、“言葉の制止”では浩志は止まらない。彼の激情に火が灯れば、普段の温厚さが嘘のような、激しいあらぶりを見せることは、誰より自分が良く知っている。
「は、あく……んっ、んっ……」
 碧もまた、その炎に煽られるように情欲を高めている。朝の情事、その愛撫の記憶が鮮明に残っていたのだろう。
「あっ……んっ……んんっ……」
 種火に油を注がれたように、碧の官能は煙をくゆらせ、次第に炎を大きくしていった。
「!」
 その様子を確かめるように、浩志の指は太股の奥に到達する。
「あっ、あ……」
 溝の部分を下着の上から嬲られた碧は、そこに何か熱いものが滲んでいる感覚に身を震わせた。
「もう、濡れてるじゃないか…」
「ひっ……」
 耳元に、熱い息。碧の体は震え、熱いものをさらに込み上がってくる。
「やれやれ、だな。こんなところで…」
 碧の官能を先導したのは浩志だ。しかし、まるでそれが碧自身の望みだったといわんばかりに、彼は彼女の耳元で言葉を連ねた。
「いやらしい女(ひと)だ」
「あ、ああっ……」
 顔を朱に染めながら、しかし、碧は反論をしない。従順に浩志の愛撫を受けながら、耳元から湧き上がってくる堪えようのない甘い痺れを感受しているのだ。


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