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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』第2話「訪問者」-20


 これまでも、情事の最中に尿意を訴えて、中座することは多々あった。普段から彼女には“頻尿”の傾向があることを兵太は理解していたので、そのことは特に意を介さなかったのだが、風呂場とは言え、その粗相を目の当たりにしたのはこれが初めてで、それはとてつもない昂奮を伴った刺激を兵太に与えることになった。
 泣きそうな顔をしながら、それでも止まらない生理現象に戸惑い、それでいて何かから解放されたような恍惚を感じさせる双海の表情…。
 経験したことのない、背筋をぞくりとさせる何かを、兵太はそのとき感じてしまったのだ。それが、背徳の感情であるという認識はあったが、双海が放尿してしまった瞬間の光景は、脳裏に焼きついたまま離れることがなかった。
「あ、いや…。すまん、双海。ワイ……なんちゅうことを……」
 だからといって、愛する人に放尿を強要することは罪悪以外のなにものでもあるまい。
「ホンマ、すまん。はよ、いっておいで……」
 兵太は慌てて双海の身体から手を離し、自分の不適切な発言を呪いつつ、彼女に手洗いに向かうよう促した。
「……です」
「……?」
「あ、あなたが……そう、望むなら……私……」
「………」
「ここで……しても……いい…です…」
「……!」
 何を言っているのか、始めはわからなかった。しかし、促されても部屋の外に出ようとしない双海の様子で、兵太は彼女が自分の言葉を受け入れてくれたことが理解出来た。
「な、なに言うとるんや」
 兵太は、自分で言っておきながらそれを最初は断ろうとした。
 しかし、生理現象の発露を留めるための踏み足をその場で何度も繰り返す双海の姿に、心の奥に潜んでいた道ならぬ関心が、海底火山のように隆起をしてしまっている。
「え、ええのやな?」
「………」
 双海は、俯きながら小さく頷いた。
(それはそれとして…。どないしよう…)
 ここは、部屋の中である。そして、個別のトイレはない。まさか、床にそのまま、というわけにはいかないだろう。
「あの……あれを、使うの……」
 双海は、そんな兵太の疑念を取り除くように、部屋の隅に鎮座していた陶器の壺を指差した。
「?」
 かつてヨーロッパのホテルでは、部屋付きのトイレが常設になるまでは、陶磁器製の壺が置かれていたという。それは、夜間に催してしまったときの便器の代わりになるものだったそうだ。
「これは、そういうもんやったんか…」
 そして、古い洋館であるこの屋敷には、そういう壺を置く収納場所が部屋にある。と言っても、“秘館”と称されるほど客人も珍しい状況にあるのだから、これが使用されることなど皆無と言ってよかった。
 それと知らなければ、単なるインテリアのひとつとしか映らないだろう。
(知らんかった…)
 事実、兵太はそうだった。壺の存在など、全く意に介していなかった。双海の意外な博識を、彼は思い知った。
 しかし、実は双海にとってもこの話は、初めて屋敷を訪れた時に望から聞かされたものだった。
『お手洗いまで、どうしても距離がありますから…。緊急事態の場合は、遠慮なくどうぞ』
 実際、一度と言わず何度か、双海は使用したことがあった。


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