『秘館物語』第2話「訪問者」-19
「あっ、あっ……! んっ、んぅっ! あぁっ、んぁっ!」
己の秘処をまさぐられる行為にすっかり慣れて、更に甘い声を挙げるようになった双海の姿を見れば、それも明らかだ。
“百聞は一見に如かず”というが、その“一見”も“百聞”があれば“百識”に至る。“官能小説”に造詣の深かった双海が、兵太に身を捧げてから、その表現力に凄まじい躍進を見るに至ったのは、何よりの証であった。
…さて、難しい話はそろそろやめにしよう。
「あっ…」
不意に、双海の身体が硬直した。
(おっ…)
内股にかすかな力みを感じた兵太は、指先でまさぐる筋の濡れ具合からも、彼女は軽く達しようとしているのではないかと思った。
「双海、遠慮はいらんで…」
先に言葉で、許しを与える。これまでの経験則から、指先だけの刺激で果てることに強い恥じらいを見せると思ったからだ。
「………」
だが、どうにも様子が違う。双海の身体は相変わらず硬直したままで、よくよく見ればかすかな震えもある。
「? どないした?」
明らかにそれは、官能が及ぼす反応ではない。すがりつくような、申し訳なさそうな、そんな双海の眼差しは、明らかに何かを訴えている。
「あ、あの……」
もぞもぞ、と兵太の手が埋まったままの内股がせわしなく動くようになっていた。
「ご、ごめんなさい……私……その……」
顔に走る紅色は、またしても恥じらいのものに変わっていた。
「お手洗い……」
それはもう、消え入りそうな声だった。それもそうだろう。情事の真っ最中で、盛り上がりを見せてきたところで、トイレに行きたいなどと…。
「はは、そうか、そうか」
しかし、兵太はそれを責めたりしない。慣れた風に、“トイレに行きたい”と言い出した彼女を優しく見つめている。
「ええよ。我慢は、良くないからな」
「ご、ごめんなさい……」
兵太は、覆い被さっていた双海の上から体を起こした。
すぐに双海も身を起こして、乱れた衣服の裾を慌てたように正す。ひょっとしたら、かなり切羽詰っているのかもしれない。
「………」
そんな仕草が、官能的なものに兵太は見えた。それが、思いがけない行動を彼に取らせていた。
「あっ、へ、兵太さん!?」
ドアに向かうべく、背中を見せた彼女を、兵太は抱きとめていた。
「あ、あの……私……お、お手洗いに……」
それを許してくれたのは、他ならぬ彼であり、自分がどんな状況にあるのかも理解してくれているはずだ。それとは矛盾した行動に、双海は戸惑うばかりである。
「なぁ、双海……」
「は、はい?」
「ここで、してくれいうたら…。ワイのこと、キライになるか?」
「!?」
はっきりとした動揺を、震える肩で双海は表した。瞬間、兵太は勢いに任せた自分の発言をかなり後悔した。
実は、兵太のこの発言には伏線がある。なぜなら一度、双海が放尿する姿を兵太は間近で見てしまったことがあるのだ。そしてそれは、かなり時期の近い出来事であった。
兵太が半年もの間、双海の傍を仕事で留守にしていたことは既に触れたが、それ故にこそ帰宅して直後の情事は激しく燃え盛ったものになった。その日だけで、居間で一回、風呂場で一回、寝所で三回と、僅か一日で五回も双海を抱いたのである。
そして、兵太に忘れられない光景を与えた出来事は、風呂場で起こった。
シャワーを使って、双海の陰部を洗いながら刺激していたときに、彼女は強めの水流が起こす刺激に耐えかねたものか、いきなり放尿してしまったのである。
双海は謝りながら、ひどく恥じらいの様子を見せていたが、シャワーの湯に負けじとばかりに迸る金色の水流が、兵太の目は斬新なものとして映った。