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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』第2話「訪問者」-18


「双海、可愛いで」
 本当に、そう思う。兵太は、彼女の顔を未だに覆っているその手に、再びキスを捧げた。
「………」
 “天岩戸”に隠されていた、愛らしい顔がようやく姿を現す。待ちかねていたように兵太は、今度はその唇に自らのそれを重ね合わせていた。

 ぬっ、ぬぬっ、ぬ……

「んっ……んぅっ!!」
 兵太は秘裂に押し当てていた指も、同時に蠢かせていた。
「んふっ……んっ、んぅっ……んんんっ!」
 優しい口づけに安堵の様子を見せた双海だったが、己の下半身から唐突に湧き上がった刺激の強さに、喉を大きく鳴らした。
「んっ……んんっ……んぅ……んんっ……」
 彼女は、“エロス大魔神”の本領を発揮し始めた兵太の愛撫に、完全に踊らされている。その顔に浮かぶ紅色は、“恥じらい”を映したものばかりではなく、身体中を巡る愉悦が起こす“火照り”も混ざっているに違いない。
「はぁっ……あんっ……んぁぅっ……んっ、んっ……!」
 艶のある声にはいつしか遠慮がなくなり、兵太の指使いに応えるように、双海は身体をよじらせながら、甘い声を挙げ続けた。
(ほんま、たまらんわ……)
 双海との情事は、当然ながらこれまで何度となく重ねてきた。いわゆる彼女の“初めて”を頂いたのも自分であるし、なにより自身の“筆おろし”の相手も彼女であった。それを考えると、二人は同時に生の性経験を積んできたといえる。
 考えてみれば、兵太自身が識っている女性の身体は、双海以外にはないし、彼女もまた、情事のためにその肌を許した相手は兵太以外にいない。
 “官能”そのものに対しては、人並みならぬ関心を抱く兵太と双海である。なにしろ、二人して官能小説の蒐集と研究を、ある意味ライフワークにしているようなものだからだ。
 フリーライターである兵太は以前、『E−Romance』(あけぼの出版)という小説雑誌に、“官能小説”のレビューを扱う連載を持っていた。それに加筆・修正を加え、ひとつにまとめた『ホンマノエロス』(あけぼの出版)という本も出している。近々、第二回目の連載を打診されており、休暇明けの仕事はそれを第一に考えているところだ。
 そして、双海もまた“官能小説”とは無縁ではなかった。なぜなら彼女は、その『E−Romance』で作品を隔月掲載している、現役の“官能小説家”だからである。ちなみに、その筆名は、<あのうふみ>という。
 <あのうふみ>作品は、“官能小説”にはつきものといって良い、暴力的な背景がほとんど用いられず、いわゆる恋愛小説のような官能小説なのが最大の特徴である。それでいて情事の表現は、普段の彼女からは想像もつかないほどに濃密・精緻であり、女性層からの支持が特に高い。ちなみに、一般の評論家からは、
『官能、と言い切るには弱い部分も見受けられるものの、その表現力と物語性には括目するところがある』
 と、批評されていた。
 もともと双海は、中学・高校・大学と一貫して“文芸部”に所属してきた。余談ながら、兵太とは、高校の文芸部で一緒になった時に知り合った。更に余談になるが、高校時代の先輩には、著名な女流作家<藤堂智子>もいた。
 そして、これはもう“蛇足”と言っていいかもしれないが、遺伝子レベルの話になると、彼女には紛れもなく“文章家”としての血胤がある。なぜなら彼女は、いまは故人となって久しい官能小説家<安納郷市>の、“孫娘”にあたる事実があるからだ。
 ちなみに、この事実を本人は知っていない。その秘密を知っているのは、今も健在な彼女の祖母だけである。そこにどのような経緯があったのかも…。
 ひとついえるのは、双海は生まれる前から“官能小説”と縁を持っていたということである。
 深い縁の存在が、その結びつきをより運命的なものとしたことは、双海が“官能小説家”として世に名を現すことになったひとつの結果を見ても明らかであった。
「んっ、あっ、あぅんっ、んんっ、んっ、んぅっ……」
 …情事の真っ最中に、えらい脱線をしたものだ。もっとも、本人たちはその行為に夢中で、自分たちのあられもない姿を、我々“第三世界の住人たち”から覗かれていることも知るまい。


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