『秘館物語』第2話「訪問者」-16
『双海は、望はんや、碧はんが好きなんやな』
『うん…でも…』
『?』
『一番、あなたが好き…』
たまらんことを言うものであった。兵太は、こんな女性が自分の伴侶であると言う幸福を、一体どういう言葉で言い表して良いか、全くもってわからなかった。
「んっ……あっ……あん……」
そういう過去の情景をリフレインしながら、双海の身体を愛する兵太。口づけだけでは済まない情念は、その柔らかい身体にも手を伸ばしていた。純真さを宿すその柔らかい身体を、壊してしまわないように優しく、優しく…。
むにゅ…
「っ…!」
膨らみに手を添えたとき、双海が大きく息を呑んだ。緊張が動悸となって手の平に伝わってくる。
一瞬のためらいはあったが、兵太は優しくその膨らみを揉み込んだ。彼女は着やせをするので、見た目以上の質量感が手の平に生まれた。
「んっ…!」
官能を宿した熱い吐息を、双海は零した。感度は頗る、良好である。何度も交わした口づけが、彼女を大いに昂ぶらせたのだろう。
「いい声や…」
耳元に口を寄せ、彼女の官能を言葉でも煽りながら、
むにっ、むにゅ、むにゅ、むにゅ……
兵太は、乳房への愛撫を強くした。
「んんっ……! んぅっ……! んあぅっ……!」
戻ってきた反応は、想像以上であった。普段の双海からは想像も出来ないほどに、色艶のある声がその細い喉から発せられたのだから。
(どんな色に、なるんやろ…)
直前まで絵画の話をしていたから、思考にも影響があった。双海の謳う声に色がつくとしたら、それは果たしてどのような色合いを見せるのか、と…。
(……いや、あかんわ)
この声を聞けるのは自分だけだ。そして、他のものになど絶対に聞かせたくはない。数々の偶然と必然を交えた出会いの中で、手にすることが出来た生涯無二の花なのだから。
(ワイも、欲深やな)
碧に対して見せた浩志の独占欲を、笑い話にはできそうにない。男と言うものは、実に勝手極まりない生き物といえる。
「兵太さん……」
ふと、双海が名を呼んだ。何処か恨めしげな視線である。
「あ、あぁ、堪忍や」
思考を別のところにやってしまったので、双海への愛撫がおざなりになったらしい。それを、彼女ははっきりとした意思で責めてきたのだ。
「今は……私のことだけ……考えて……」
「う…」
伸びてきたその両手が、頬をつかんだ。そして、いつにない積極的な言葉が、兵太の中にある炎を強く煽り立てた。
「堪忍や」
もう、余計なことは要らない。兵太は、白いワンピースの上から双海の乳房を強く愛撫した。片手ではすまなくなったので、両手を使って、である。
「あっ……んんっ……!」
待ち焦がれていた、強い愛撫。それを受け止めて、双海は身を捩らせながら悶える。恥じらいを紅色で表すその顔には、満ち足りた笑みも浮かんでいた。
「もっと、強い方がええか?」
「あ……ん……」
「こうか?」
むにゅむにゅむにゅっ!
「んんっ……! んふっ……! くふぅっ……!!」
双海の反応に答えるように、兵太は抑揚をつけて胸を揉む。双海の身体が敷かれたベッドシーツの上で何度も波を打ち、布地の乱れを生んだ。